太平洋戦争の半ば、船舶不足を木造船で補うため各地の由緒ある巨木が切られた

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太平洋戦争の半ば、船舶不足を木造船で補うため各地の由緒ある巨木が切られた

[レビュアー] 辻田真佐憲(作家・近現代史研究者)

辻田真佐憲さん(近現代史研究者)のポケットに3冊

〈1〉『戦争が巨木を伐った』瀬田勝哉著(平凡社ライブラリー、2640円)

〈2〉『昭和の遺書』梯久美子著(中公文庫、990円)

〈3〉『ヤクザときどきピアノ 増補版』鈴木智彦著(ちくま文庫、880円)

 太平洋戦争なかば、深刻な船舶不足を補うため、輸送用の木造船が全国で大量に建造された。その資材を調達するため、各地の由緒ある巨木が切り倒されていった。〈1〉はその経緯を丁寧にたどった労作。急造された木造船は安定性や速力を欠き、船主からも敬遠されたが、戦後もしばらく輸送に活用されたという。

 内容もさることながら、注目すべきは著者が京都中世史の専門家だということ。ゼミの指導をきっかけにこのテーマに行き着き、ついには一冊の本にまとめあげた。まさに思いがけない縁といえる。

 〈2〉は、数々の遺書を手がかりに激動の昭和史を俯(ふ)瞰(かん)的に描いた一冊。硫黄島の戦いで日本軍を率いた陸軍軍人・栗林忠道の訣(けつ)別(べつ)電報を題材にしたノンフィクションでデビューした著者らしく、単なる資料の寄せ集めではなく、そこに刻まれた肉声をたくみにすくい上げている。

 〈3〉は、五二歳の男性がはじめてピアノ教室に通う苦闘を綴(つづ)った「潜入ルポ」。ヤクザ取材を専門にしてきた著者だけに、ベートーヴェンを初代組長にたとえるなど、独特のユーモアに笑わされる。だがやがて、新しい挑戦を心から楽しむ姿に感動させられ、生身の音楽論に唸(うな)らされる。筆の力で読ませるとはこのことか。

 日常のなかから思わぬ題材が芽生え、意外な仕事に結びつくことがある。評者もなにか新しいことにチャレンジしたくなった。=寄稿=

読売新聞
2025年10月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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