【書評】“見えないもの”が持つ魅力を再発見できる心霊探偵の物語――有栖川有栖『濱地健三郎の奇かる事件簿』レビュー【評者:今村昌弘】

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

濱地健三郎の奇かる事件簿

『濱地健三郎の奇かる事件簿』

著者
有栖川 有栖 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041136553
発売日
2025/10/02
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【書評】“見えないもの”が持つ魅力を再発見できる心霊探偵の物語――有栖川有栖『濱地健三郎の奇かる事件簿』レビュー【評者:今村昌弘】

[レビュアー] カドブン

有栖川有栖さんの最新刊『濱地健三郎の奇かる事件簿』の発売にあわせ、今村昌弘さんによるレビューをお届けします。

■有栖川有栖『濱地健三郎の奇かる事件簿』レビュー

【書評】“見えないもの”が持つ魅力を再発見できる心霊探偵の物語――有栖川有...
【書評】“見えないもの”が持つ魅力を再発見できる心霊探偵の物語――有栖川有…

評者:今村昌弘

 霊能力を持つ心霊探偵・濱地が助手の志摩ユリエとともに様々な依頼に取り組む濱地健三郎シリーズの四作目が早くも登場だ。濱地のナイスミドルっぷりはもちろんのこと、このシリーズは事件に対するオカルトの関わり方が実に奔放自在なところに着目してほしい。普通は書き手にしろ読み手にしろ、オカルトとミステリの掛け合わせとなると、つい現実にはありえないシチュエーションやトリックの有無に思考が向きがちで、作品の印象も尖ったものになりやすい。ところがこの本に収録された作品は、霊によって引き起こされたトラブルを解決するものがあれば、人間が霊に対して一方的に興味を抱いたゆえの依頼があったり、本当に霊が関係しているのかどうか、判然としないまま展開するものもあったりする。そういった、霊が事件の真ん中にどんと座するばかりでなく、ほんの端っこに引っかかっている作品にも独特の味わいがあって、濱地の「霊がただ恐ろしいというのは僻目です。実際はそんな大仰な案件ばかりじゃありませんよ」という苦笑が聞こえてきそうだ。
 考えてみれば、我々が心霊の類に得も言われぬ魅力を感じるのは、いつどこにいるのか定かでない、その存在の不確かさゆえに不安や恐怖、あるいは想像力を掻き立てられるからだろう。依頼人の話によく耳を傾け、特殊な能力に驕ることなく、現場で霊との対話を重んじる濱地の姿勢は、ミステリ的探偵の立ち振る舞いと共通している。
 収録作のいくつかを紹介しよう。
『黒猫と旅する女』はタイトルから察せられる通り、江戸川乱歩の小説がストーリーに随伴する作品で、怪談が普段の生活にやおら頬を寄せてくるような不気味さと面白さがある。
 もし我々が事件を目撃し、警察に「幽霊がやった」と証言しても一笑に付されて終わりだろう。しかし、もし警察の方が頭を悩ませる立場になったら……とユニークな依頼が光る『目撃証言』も必読だ。
 お気に入りを挙げるとしたら、ある旅館から温泉に現れる霊の調査を依頼される『湯煙に浮かぶ背中』だろうか。この話のオチの、有栖川さんらしい軽妙洒脱ぶりには思わずくすりと笑いが漏れてしまった。
 またあるエピソードでは、シリーズを通して霊能力が徐々に強まりつつあった志摩ユリエが、濱地との関係を新たにする展開があり、そちらも要注目だ。これまでは濱地が依頼をこなす様を側で観察する、ミステリで言うところのワトソン的な立ち回りだった彼女が、自ら心霊に向き合い依頼を解決したいという意気込みを見せる。これまで比較的安全な立場にあった彼女が、身をもって霊と対峙することで心霊探偵の仕事の難しさがより描出されているように思うし、その身を案じながらも師として背中を見せる濱地からも目が離せない。
 ここ数年、日本ではホラーブームが続いている。我々が生活の中で抱く切迫感や不安、あるいはあらゆるものに存在する裏側を余さず知りたいという欲求の表れなのか、恐怖を掻き立てるものが特に目を引く。だからこそ、この作品のように恐ろしいだけではない心霊探偵の物語に触れることで、我々は“見えないもの”が持つ魅力を再発見できる気がする。

KADOKAWA カドブン
2025年10月13日 公開 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク