<書評>『Tシャツの日本史』高畑鍬名(くわな)著

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Tシャツの日本史

『Tシャツの日本史』

著者
高畑鍬名 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784120059407
発売日
2025/08/21
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『Tシャツの日本史』高畑鍬名(くわな)著

[レビュアー] 酒井順子(エッセイスト)

◆戦後の自由と同調圧力

 気がつけば、Tシャツの裾をボトムにインしないとダサい、ということになっている今。かつてTシャツ「イン」と言えばおたくの代名詞とされる着こなしだったというのに、流行の大波小波が、それをイケてる着こなしとしたのだ。

 Tシャツは、そしてその裾は、どのように流浪してきたのか。見過ごされがちだけれど、今やなくてはならないものであるTシャツのあり方を丹念に洗い出すことによって、著者は流行というものの暴力的なまでの強制力の背景にも、切り込んでいく。

 かつては、それだけで人前に出るものではない肌着と認識されていたTシャツが、いかにして受容されていったのか。そこに登場するのは、白洲次郎、石原裕次郎、三島由紀夫といった時代のスター達だった。戦後、日本が自由に、カジュアルに変化していく時代に、Tシャツはぴったりとフィットしていく。

 Tシャツの裾を「アウト」する波がやってきたのは、1990年代である。80年代は、尾崎豊や吉田栄作が、Tシャツをジーンズに「イン」していた時代。それが90年代になって渋カジ(アメリカン・カジュアルの影響を受けた渋谷カジュアル)が流行すると、一気に「アウト」化が進む。

 時はちょうど、「おたく」という存在がクローズアップされていた頃でもあった。前の時代のまま、しっかりと「イン」し続けていた彼等(かれら)は、揶揄(やゆ)されることに…。

 「アウト」の波はどれほどに高く強く、人々を吞(の)み込んでいったのか。そこから反転し、Tシャツの裾はどう「イン」化していったのか。たかだか裾を入れるか出すかのことではあるが、この問題を掘り下げることは、日本名物・同調圧力の仕組みを解き明かすことでもあった。

 ダサいと思われたくなくて「イン」する中高年のために、下っ腹を目立たせないための着こなしアドバイス、などもネット上に散見される今。裾問題から自由になることができる人は、もうどこにもいない。

(中央公論新社・2200円)

1984年生まれ。映画『もしかしたらバイバイ!』を共同監督。

◆もう1冊

『装いの翼 おしゃれと表現と』行司千絵著(岩波書店)

中日新聞 東京新聞
2025年10月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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