『アンダーザスキン』
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[本の森 仕事・人生]『アンダーザスキン』宇野碧
[レビュアー] 吉田大助(ライター)
街中でタトゥーを見かけると、目が離せなくなってしまう。他者の人生の「決断」を目の当たりにしている感覚になるからだ。基本的には消せないその絵を、どうして肌に刻もうとしたのか。タトゥーイストは、どんな経緯でその職に就いたのか。宇野碧の『アンダーザスキン』(講談社)を読んで、幾つもの疑問が氷解した。
冒頭の一ページ目に登場する文章でいきなりグッときた。〈母親というのは、すてきな模様で彩られている生き物なのだ。/自分も同じ女だから、大人になったらきっと自然と母と同じになる。特別な模様が肌の上に姿を現わすのだ。ずっとそう思っていた。/――どうして、他のお母さんには模様がないんだろう?〉。その模様はタトゥーと呼ばれ、入れるかどうかは自分で決めるものだと幼き日に母・一輝から教えられた針生榴が、タトゥーイストになりたいと宣言するところから物語は本格的に幕を開ける。お互いを愛し合っている二人には、血の繋がりがなかった。児童養護のボランティアをしていた一輝は、阪神・淡路大震災発生時の避難所で出会った幼女を養子として迎え入れるために、タトゥーイストを辞め公務員として働き出したのだ。その全ての歴史を知る榴は、高校一年生になった二〇〇九年の春、他の誰でもなく一輝からタトゥーを学びたいと懇願した。
覚悟を何度も問われながら課題をこなしマシンの使い方を学んだ榴が、母の肌に初めてタトゥーを入れるシーンは序盤の白眉だ。練習と本番は全くの別物であるというリアリティが、緊迫感や恐怖感と共に描写されていく。「失敗は許されない。でも失敗したくないと思ってたら何もできないよ」。できあがったタトゥーは、榴にとっては「失敗」にしか見えないものだった。しかし、母は「失敗じゃない」と言う。「彫られた人が後悔するものが失敗作なんだよ。ママにとっては、これは入れたのを後悔するようなものじゃない。リュウリュウが踏み出した大きな一歩をずっと覚えていられる大事なタトゥーだよ」。この世界に存在し得る、最も美しい絆と出合えた感触があった。
物語はその後、榴がタトゥーイストの道を進んでいく姿を一歩一歩、描き出していく。その過程で、顧客たちの「決断」のドラマがいくつも顔を出す。才能豊かな榴は、タトゥーに関しては失敗をしない。ただし言葉足らずな性質があり、仕事以外の場面で失敗と呼ばざるを得ない選択を重ねてしまう。本作はワークライフバランス、人生と仕事の共存についての物語でもあるのだ。と同時に、タトゥーにまつわるさまざまな差別の視線を書き込んだ本作は、タトゥーが社会で認められるにはどうすればいいか、主人公が果敢にトライした記録でもある。
自己実現と社会的連帯。題材はフレッシュながらも「仕事」の持つ普遍的価値を問う、新時代のお仕事小説だ。


























