『すぐに使えるビジネス教養 地政学』
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【毎日書評】複雑な世界情勢がスッと理解できる、ビジネスに効く「地政学」の基本
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
ロシアの侵攻開始から3年半を経ても停戦が実現できていないウクライナ戦争や、米トランプ政権の無秩序な政策や中国との対立関係など、現在の世界は緊張状態にあります。日本の新政権がどうなるのかも含め、私たちには学んでおくべきことがとても多いように感じます。
そこでご紹介したいのが、『すぐに使えるビジネス教養 地政学』(村山秀太郎 著、フォレスト出版)。
世界情勢よりも日本での日常生活が大変、という人もいるでしょう。しかし、対岸の火事ではすまされません。国際社会の動きは経済にも多大な影響を与えるため、現代を生きるビジネスパーソンとしては世界情勢をある程度把握しておく必要があります。そこで役に立つのが地政学なのです。(「はじめに」より)
ご存知のように地政学とは、地理的条件に着目して分析し、世界のさまざまな動きを考えていく学問。政治、経済、軍事、外交などに地理を加えることで、世界情勢を考えるためのツールです。
なぜロシアがウクライナに侵攻したのか、イスラエルが世界中から批判されてでも強行姿勢を貫く理由は何か、アメリカと中国が対立する要因は?……。ニュースでたびたび報じられてはいても、わかりにくい国際情勢の動きが、地政学的な視点をもつことによってスッと理解できます。(「はじめに」より)
そこで本書において著者は、地政学的な視点に基づいて最新の世界情勢を紹介しているわけです。きょうはそのなかから、INTRODUCTION「地政学の基本」に焦点を当ててみましょう。
地理的条件に着目する
地政学(geopolitics)は「地理の政治学」とも呼ばれるように、地理と政治学を組み合わせた学問です。国際情勢を読み解く際、各国の政治・経済・軍事などの要素だけでなく、地理的要件に着目して分析し、世界の動きを考えていくのです。(12ページより)
国家戦略に影響する地理的条件を考えてみた場合、“その国が海に面しているか内陸にあるか”“山脈や河川がどこに位置しているか”“天然資源の分布はどうか”などの要素が挙げられます。
しかし当然ながらそれらは、政治体制が変化したり、国力の盛衰があったりしたとしても動かすことはできません。したがって、その国の国家戦略は、地理的条件を土台にしたものとなるのです。
そのため地政学では地理的条件をベースとし、そこに現在の政治体制・経済力・軍事力などを加え、“各国がどのように立ちまわるか”を考えていくわけです。(12ページより)
中ロの軍事的意図は?
たとえばロシアは、広大な国土に豊富な資源を有する強国。しかし、欧米諸国の軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大に危機感を抱いたことが、プーチン大統領による2022年からのウクライナ侵攻の要因のひとつになったと考えられています。
一方、中国はかつてロシアとユーラシア大陸で覇権を競う大陸国家でした。しかし近年は経済成長を果たし、大陸の外へ広がる海洋へと進出するようになりました。
現在、中国は南シナ海や東シナ海で威圧的行動を繰り返していますが、その背景には、太平洋に出て、将来的にはその西半分を掌握しようとする狙いがあると推測されています。
こうしたことからもわかるように、地理的条件に注目することで見えてくるものがあるのです。だからこそ地政学は、世界を読み解くために便利な道具であるといえるわけです。(12ページより)
19世紀後半に生まれた
地政学は19世紀後半〜20世紀前半に体系化された、比較的新しい学問。その成立には、3人の学者たちが大きな影響を与えました。
まずは、制海権の重要性を説き、強力な海軍の整備が国力の要であると主張したアメリカの海軍軍人マハン。シーパワーやランドパワーといった概念を提唱した人物でもあります。
マハンの主張を継承したイギリスの地理学者マッキンダーは、ハートランドという概念を提唱した人物。ユーラシア大陸の内陸部を制する国が世界を制するとし、ランドパワーの脅威を説いたのでした。
そして、ハートランドよりも海に面したリムランドが重要とする学説を展開したのがアメリカの政治学者スパイクマン。
彼らによって、地政学の基礎が築かれていったわけです。(14ページより)
冷戦期に注目を浴びる
第一次世界大戦中の1916年には、スウェーデンの政治学者チェーレンが論文「国家有機体説」のなかで、国家は成長し続ける生命体であり、生命維持に必要な資源を獲得しなければならないなどと主張し、その理論に「地政学」と名づけました。(14ページより)
そののち第二次世界大戦期には、ナチス・ドイツを率いるヒトラーが地政学を侵略の理論的根拠とし、ナチスの“御用学問”となります。そのため戦後は「悪魔の学問」「戦争の道具」とみなされ、長きにわたってタブー視されることになったのでした。
しかし、東西冷戦中に各地で紛争や内戦が起こると、地政学はそれらを分析するためのツールとしてふたたび注目されます。21世紀に入ったばかりの2001年にはアメリカ同時多発テロが起こり、世界はますます不安定化します。
そして、現在も多くの紛争が起こっていることは周知の事実。つまり、そんな混沌とした時代だからこそ、地政学へのニーズが高まっているということです。(14ページより)
地政学を知れば世の中の動きがクリアに見え、未来を先読みできるようになるはず。もちろんビジネスにも活用できるだけに、ぜひとも本書を活用したいところです。
著者紹介:印南敦史
作家、書評家、音楽評論家。1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X
Source: フォレスト出版


























