<書評>『サティとドビュッシー 先駆者はどちらか』青柳いづみこ 著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

サティとドビュッシー

『サティとドビュッシー』

著者
青柳 いづみこ [著]
出版社
春秋社
ジャンル
芸術・生活/音楽・舞踊
ISBN
9784393932407
発売日
2025/07/22
価格
3,300円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『サティとドビュッシー 先駆者はどちらか』青柳いづみこ 著

[レビュアー] 小倉孝誠(慶応大教授)

◆対照的作曲家の友情、葛藤

 芸術や文学の領域では、同じ時期に2人の才能が並びたち、競いながらひとつの時代を画するということが起こる。19世紀末から20世紀初期に活躍したフランスの作曲家、ドビュッシーとサティもその例である。本書は2人の生と芸術を交叉(こうさ)させながら、音楽のみならず文学、バレエ、演劇、絵画の流れも絡めて、当時のパリの文化空間をあざやかに再現してみせる。

 ドビュッシーは貧しい家庭に生まれ、両親の期待を背負ってパリ音楽院に入学し、栄誉あるローマ大賞を受賞した。その後、私生活のトラブルなどを経験したが、次々に傑作を発表し、オペラ「ペレアスとメリザンド」以降は世間的な成功にも恵まれた。

 他方サティは、裕福な海運業者を父にもったが、怠惰な性格が災いして、パリ音楽院に入ったものの成績がふるわず、やがて学校を追い出された。その後は、酒場でピアノを弾きながら糊口(ここう)をしのぐ生活を続けた。

 その2人が知り合ったのは1891年頃、パリ北部モンマルトルだった。当時はカフェ「黒猫」を中心にボヘミアン文化が華ひらき、2人の若き作曲家はその洗礼を受けた。マラルメやレニエなど、象徴派詩人との親近性も2人に共通する。さらに、1889年にパリで開催された万博を見物した彼らは、どちらも異国とくにアジアの音楽に興味をひかれ、東洋趣味を採り入れた曲を書く。

 若い時の2人は互いの才能を認め合い、友情で結ばれた。しかし「ペレアスとメリザンド」が1902年に初演され、ワーグナー主義からの脱却を画した作品として高く評価された頃から、2人の関係に亀裂が入る。ラヴェルなど若い世代がドビュッシーを批判し、サティの革新性を持ちあげたことが、事態をいっそう複雑にしたようだ。

 著者によれば、ドビュッシーは耳の喜びのために、サティは眼のために音楽を書いたという。出自、性格、思想を異にする2人だけに、秘められた葛藤があった。著者はドビュッシー研究者だが、サティへのまなざしもやさしい。

(春秋社・3300円)

ピアニスト・文筆家。著書『翼のはえた指 評伝安川加壽子』など。 

◆もう1冊

『祝宴の時代』ロジャー・シャタック著、木下哲夫訳(白水社)

中日新聞 東京新聞
2025年10月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク