遣唐使と海を渡って来た唐人・袁晋卿(えんしんけい) 何者でもない異端の存在が巻き込まれるのは国家の秘事――

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梧桐に眠る

『梧桐に眠る』

著者
澤田瞳子 [著]
出版社
潮出版社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784267024733
発売日
2025/09/05
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

[本の森 歴史・時代]澤田瞳子『梧桐に眠る』

[レビュアー] 田口幹人(書店人)

 澤田瞳子氏は、奈良仏教史を研究した後、奈良時代の天平宝字年間の平城京を舞台とした『孤鷹の天』で小説家デビューを果たす。

 その後、東大寺大仏建立事業を食の視点から描いた『与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記』、天平の天然痘大流行を題材にした『火定』など、奈良時代の疫病や人物をテーマに多くの作品を書いてきた。

 国際色豊かな文化が開花し、政治権力と人間ドラマの交錯する奈良という時代を知り、がぜん興味を持つようになったのは、氏の作品を読んだことがきっかけである。権力をめぐる欲と欲が衝突し、謀略あり、裏切りあり、それが政変や戦へとつながっていく。奈良時代は、戦国時代から幕末までにも劣らないスリリングな時代だ。

『梧桐に眠る』(潮出版社)は、八世紀の奈良(寧楽)を舞台とした物語だ。主人公は、遣唐使と共に長安から海を渡って来朝した唐人の袁晋卿。遣唐使の帰国の際、ともなわれて来日した唐人がいた。なかでも袁晋卿は音道の発展に貢献したとされる実在する人物である。物語は、この「ともなわれて来日した」という史実に著者の創作や解釈を加え、晋卿はなぜ日本に連れてこられたのかということを一つの軸として動いていく。

 長安のいち市民として平穏に暮らしていた晋卿は、父から日本人僧が日本に持ち帰る書物の整理をする人手を探していると聞き、手伝うことになる。海を渡り、何年後に戻れるのか分からない環境でも、大唐の学問摂取にどん欲な日本人を目の当たりにした晋卿は、日本とはどんな国なのかを知りたいと願う。そんな想いが渇望へと変わってきた時、共に日本に行ってみないか、と誘われる。まさか、それが大きな企みだったとは知らず、晋卿は船に乗り込むのだった。

 晋卿が平城京に来て間もなく、浮浪児たちに荷物を奪われる事件が起こる。荷物には、朝廷から授けられた位を証明する大切な書類が混じっており、晋卿は日本での暮らしの礎となる証明書を失い絶望の淵にいた。しかし、翌朝、狭虫という少女がその位記を返しにやってきた。そこから、晋卿は狭虫や仲間の浮浪児たちに心を寄せてゆくのだった。

 本書には、もう一つ軸がある。それは、外国人である晋卿が、なぜ戸籍のない子どもたちに執着するのだろうか、ということだ。

 そこには、何者でもない異端の存在として、守られることのない環境に身を置き、ただ一人言葉も通じない異国の地で暮らすことになった晋卿の不安と後悔がせめぎ合う心模様がある。

 寄宿する藤原宇合邸を舞台に、晋卿は自身がどんな渦に巻き込まれていくのかを知るのだった。何者にも守られないことの本当の意味に辿り着いた晋卿の覚悟は、ぜひ読んで確かめていただきたい。

新潮社 小説新潮
2025年11月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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