『森羅記 一 狼煙の塵』
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モンゴル皇帝と鎌倉幕府執権が相まみえる場面に想いを馳せて――。
[レビュアー] 末國善己(文芸評論家)
中国の古典を現代人が共感できる物語に再構成した〈大水滸伝〉シリーズを全五十一巻で、チンギス・カンが大帝国を築くまでを追った『チンギス紀』を全十七巻で完結させた北方謙三が、元寇に向けて進む長編『森羅記』をスタートさせた。
元寇で両軍を率いたのは、皇帝クビライと鎌倉幕府執権の北条時宗である。ただ第一巻では、クビライは祖父チンギスの足跡をたどる旅をする若者に過ぎず、時宗は誕生したばかりで父親の時頼が活躍しているだけに、物語の壮大さが分かるだろう。
元寇は鎌倉幕府を弱体化させ、やがて後醍醐天皇の挙兵、南北朝の争乱に繋がる。著者の初の歴史小説が南北朝ものの『武王の門』だったことを思えば、原点に回帰するかもしれない『森羅記』は著者の歴史小説の集大成ともいえるのである。
亡くなったチンギスの末弟テムゲの弔問に旅の途中で訪れたクビライは、海運業を営む礼忠館から派遣されテムゲ家の水軍で船頭をしている日本人のタケルから船と水軍について学ぶ。
兄の経時が亡くなり執権を継いだ時頼は、力で北条家惣領の家系である得宗家の支配体制を強固にした。京の六波羅探題を務める北条重時は、肥前国を拠点とする水軍の松浦党からモンゴルの状勢を聞き、いずれは日本に来襲すると考えていた。重時の危機感は、周辺に軍事大国があり安全保障環境が厳しい日本の現状を踏まえると、生々しく感じられるのではないか。
時頼に鎌倉へ呼び戻され連署(執権の補佐役)になった重時は、海が近い鎌倉にありながら水軍を持たない幕府のため、各地の水軍を訪ね幕府の水軍を作るのに何が必要かを調べ始める。
クビライも鎌倉幕府も、水軍の設置に着手したばかりで、両水軍が激突するまでにどのような展開になるかは、まだ見えてこない。ただテーマの一端は、うかがえるようになっている。
鎌倉時代は、各地の守護にとって国とは自分の支配地域のことを意味し、天皇が権威で、幕府が権力で治めている日本全体は見えていない。時頼は、守護たちに日本を意識させないと外敵と戦えないと考えている。一方、チンギスの兄弟、息子たちが分割統治しているモンゴル帝国は、各家の思惑が錯綜し新皇帝が決まらない空白の中にあった。人を殺し松浦党を出奔したタケルは、海で生きており国への帰属意識が薄かった。様々な国家観を持つ人物を配した本書は、国家と個人の関係が議論されている時代に、国家とは何かを問い掛けているのである。


























