『キャンディハウス』
- 著者
- ジェニファー・イーガン [著]/谷崎 由依 [訳]
- 出版社
- 早川書房
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784152104595
- 発売日
- 2025/09/18
- 価格
- 3,850円(税込)
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記憶を共有する社会での家族の形。近未来のファミリー・ヒストリー
[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

※画像はイメージ
ソーシャルメディア企業のCEOであるビックス・ボウトンは41歳。次の一手が思いつかず悩みを深めていたところ、気まぐれに参加した学術的な集いでヒントを得て、「オウン・ユア・アンコンシャス」という自分の意識と記憶を外在化して保存するサービスを思いつく。外在化記憶をオンライン上の「コレクティヴ」にアップロードすれば、それは集合意識の一部となり、同時に他者の意識と記憶にもアクセスできるのだ。
ジェニファー・イーガンの『キャンディハウス』は、そんな記憶共有サービスを誰もが気軽に使う世界を背景に、人々のさまざまなデータを計算(カウント)し行動を予測するカウンターたち、デジタル化されることを拒んで逃げ抜けするエルーダーと呼ばれる人々、彼らの逃亡を助けるモンドリアンという団体が跋扈。そんな近未来SFというべき設定を呈する物語なのだけれど、それら一切合財の根幹を担うのがヒューマン・ドラマなので、読んでいて受け取るのは意想外なまでに温かな感情なのである。
ビックスを大富豪にしてくれた発想源である本の著者ミランダ・クライン。彼女のかつての夫で有名音楽プロデューサーのルー・クライン。2人の愛娘ラナとメローラ。彼らを筆頭に、この物語にはたくさんの家族が登場し、それぞれのファミリー・ヒストリーを紡いでいく。先述した近未来世界におけるガジェットと濃淡さまざまに関わっていく登場人物らの来し方や行く末を丁寧に描き、各人の関係性も少しずつ解き明かしながら、デジタル(事実)一辺倒ではまかないきれない記憶にまつわる物語を、作者はゆっくりと立ち上げていくのだ。この作品にはキャラクターが重なる『ならずものがやってくる』という前作がある。それを読んでいなくても大丈夫だけれど、本作を気に入った方はそちらも是非。ルー・クライン世代の青春の詳細がわかって、さらに『キャンディハウス』の味わいが増すはずだから。


























