『ギリシア悲劇 3 エウリピデス』
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愛する男に裏切られた女の復讐 永遠なるテーマのこれぞひな形
[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)
前回はパゾリーニ監督のギリシャ悲劇『アポロンの地獄』(’67年)と原作のソポクレス『オイディプス王』を取り上げたが、今回はパゾリーニ監督によるもう一つのギリシャ悲劇『王女メディア』(’69年)と原作のエウリピデス『メデイア』(メディアと呼ぶのが日本では一般的だが、ちくま文庫版の表記はメデイア)。
美男の英雄イアソンは、ギリシャ中からヘラクレスをはじめとする英雄を集め、黄金の羊の毛皮を手に入れるために辺境の地コルキスへ向かう。コルキスの王女であり巫女でもあるメデイアはイアソンを見た瞬間に狂おしい愛に囚われ、彼のために毛皮を盗み、弟を殺して、イアソン一行とコルキスを去る。時が流れ、メデイアとイアソンは二人の男児にも恵まれて大国コリントスで暮らしていた。だが、イアソンは彼女と子供を捨て、コリントス王クレオンの愛娘と結婚することに。メデイアはイアソンへの復讐を誓う。結婚の祝いとして毒を塗った衣装を姫に贈り、これを着た姫は苦しみにのたうちまわった末に火に包まれ、駆けつけた父王とともに無惨な死を遂げる。知らせを聞いたメデイアは子供たちを刺殺し、イアソンに「あなたはみじめな最期を遂げるだろう」と憎悪を投げつけ、我が子の遺骸を抱いて竜にひかせた車に乗って去っていく……。
愛する男に裏切られた女の復讐。これは古今東西、あらゆるジャンルで取り上げられてきた永遠のテーマだ。鬼才パゾリーニは復讐の鬼と化す女を具現化するために『王女メディア』の主人公に世紀のプリマドンナ、オペラ歌手マリア・カラスをむかえた。オペラでもメディアを当たり役としていたカラスは、歌手としてではなく女優として堂々と画面に登場。大きな目は気性の激しさと情念を秘め、きつく結ばれた唇は意志の強さを表す。メディアが殺した我が子を抱いて燃えさかる炎の中に立つラストは原作より悲劇的で、カラスの壮絶美に畏怖さえ覚える。中東・アジア・東欧の音楽を使い、ロケは中東の遺跡、原始的な衣装や風俗というのは『アポロンの地獄』の二番煎じの感もあったが、カラスの存在感はそんな印象を吹き飛ばす迫力がある。


























