『江戸川乱歩傑作選』
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天井の節穴から、毒薬を垂らして、人殺しをする!
[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)

※画像はイメージ
名著には、印象的な一節がある。
そんな一節をテーマにあわせて書評家が紹介する『週刊新潮』の名物連載、「読書会の付箋(ふせん)」。
今回のテーマは「毒薬」です。選ばれた名著は…?
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毒殺を描いた小説は枚挙に暇がない。用いられる毒も多様だし、相手に毒を摂取させる方法もさまざまだ。
かの江戸川乱歩が考え出したのは、ほかの作家にはまず思いつかないであろう突飛な方法だった。
「屋根裏の散歩者」の主人公・三郎は、新しく移った下宿屋で、自室の天井板の一枚が外れることを発見する。そこから屋根裏に上がって歩き回り、天井の隙間や節穴から、ほかの部屋を覗くようになった。
あるとき大きな節穴から下を覗いた三郎は、そこが止宿人の中でいちばん虫の好かない男の部屋であることを知る。男は節穴の真下で口をあけて寝ていた。三郎は、歯科医助手であるこの男が以前、押し入れに隠し持っている致死量のモルヒネの瓶を見せてくれたことを思い出す。そして考えるのだ。その毒薬を盗み、寝ている彼の口に垂らせば殺せるのではないか、と。
〈「天井の節穴から、毒薬を垂らして、人殺しをする! まあなんという奇想天外な、すばらしい犯罪だろう」〉
どんな遊びにも飽き飽きしていた三郎は、この異常な思いつきに有頂天になる。そしてついに実行に移し、偶然も手伝って、密室殺人が成就してしまうのだ。
犯罪としては荒唐無稽だが、屋根裏を散歩して他人の生活を窃視するところから殺人を思いつくというのは、いかにも乱歩らしい。
三郎の殺人は結局、明智小五郎によって暴かれる。その過程もまた思いがけないもので、「そうきたか!」と思わせられる。


























