話題の映画『爆弾』の原作者・呉勝浩氏、レジェンドプロゲーマー・ときど氏と対談!新作小説『アトミック・ブレイバー』は格闘ゲーム小説!?
対談・鼎談
『アトミック・ブレイバー』
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『アトミック・ブレイバー』刊行記念 呉勝浩×ときど(プロゲーマー)スペシャル対談!
呉勝浩氏の待望の新刊『アトミック・ブレイバー』は、近未来の東京を舞台にした異色の作品。作中で大切なモチーフとなるのが、今世界で最も熱いエンターテインメントの一つである格闘ゲームだ。日本のeスポーツ黎明期(れいめいき)から業界を盛り上げ、支えてきたレジェンドプロゲーマー・ときど氏との対談が実現した。

プロゲーマーという仕事
呉 この対談の数日前まで3週間くらい海外に行かれていましたよね。年間何日くらい海外に行ってらっしゃるんですか?
ときど 年に10回前後は大会などで海外に行っていて、一度行くと1週間くらいは滞在するので年間70~80日ほどは海外にいますね。
呉 そういったイベントなどのない時期は、どのようなサイクルでお仕事をされているのですか? そもそも休みはありますか?
ときど 休みはないですね。ずっと同じようなペースで生活しています。正直、こんな生活でお金もらっていいのかな、というような(笑)。朝10時くらいに起きて、食事や連絡作業、身体(からだ)を動かすなどをして、14時ごろから所属しているチーム・REJECTのオフィスに行って、集まってくるメンバーたちと21時くらいまでゲームをしていますね。情報交換や作戦を考えたりもそこでします。そして帰宅した後に、ゲームをするということが多いです。
呉 それは振り返りをするとかですか?
ときど そうですね。あとは遠方にいる方々との対戦だとか。半日くらいはゲームやゲームに関することをしているという日々ですね。
呉勝浩、ゲーム観戦のおもしろさに目覚める
呉 僕は2017年のカプコンカップ(*カプコンが主催する主に「ストリートファイター」シリーズで開催する格闘ゲームの公式世界大会)がきちんと見た初めての格闘ゲームの配信だったんです。その年に行われていたストリートファイター5の世界大会(*EVO2017。Evolution Championship Seriesは様々な対戦格闘ゲームの世界最大規模のオープン大会。世界中からプレイヤーが集まり、人気格闘ゲームのチャンピオンを決める)でときどさんが優勝されたのをリアルタイムで見ていなかったことがとても悔やまれるのですが、あれはやはりご自身ではすごい大会だったのでしょうか。
ときど そうですね。ストリートファイター5の2年目で、自分としても大きな大会で優勝できたこともあって印象深いですね。でもその後ますますゲームシーンが盛り上がってきたので、呉さんはとても良い時期をご覧になっているのではと思います。
呉 それまではどうしてもゲームって「やる」もので、でも自分は指が動かないのでハマれなかったんです。ですが、配信を見るようになって、ゲームにはそれぞれの魅力的なキャラクターがいて、その裏にさらにそれをプレイするプレイヤーたちがいて、こんなに面白いんだっていうことに気付かされて。配信を通して魅力的なエンターテインメントになっていっている時期にゲームに出会って、今でも見続けるようになったので、良い時期を見たというのはそうかもしれないですね。
ときど 長年の下積みがあったというか。ストリートファイター2が出てきて、大抵の人は遊びとしてやっていたなかで、格闘ゲームに対する世間の評価をもっと変えられたらとか、仮に世間に認められたらどういうことをアピールできるかとかを考えるプレイヤーが少数ながらいたんです、この20年くらいの間。そういう方々が強い思いを持って、プレイし続けていたので今のような状況になれたのかな、とは思います。
呉 プロゲーマー第一号は、梅原(うめはら)(大吾(だいご))さんですよね?
ときど 格闘ゲームで言うと、梅原さんですね。日本では。2010年ごろですね。
呉 ときどさんは、二号?
ときど そうですね。僕がプロゲーマーになったのは梅原さんの次くらいで、2011年です。そもそも「プロゲーマー」という道があるの!? というような状況でしたけど。
呉 ときどさんのご著書『東大卒プロゲーマー』を拝読したのですが、めちゃくちゃおもしろくて。やはりおもしろい人生を歩まれているので、創作をする身からすると実人生にはかなわんか……とも思いました(笑)
ときど いえいえ(笑)。この業界どうなっていくんだろうな? という不安はありましたよね。
呉 黎明期と言えると思うのですが、楽しかったのでは?
ときど 楽しかったですね。おもしろかったです。でも最初にこの世界に入ったときはまわりからは止められました。ゲームをやっている人ほど止めるんですよ。当時はまだゲームがまわりに言えない趣味だったりしたので。
呉勝浩、格闘ゲームに完全にハマる
呉 コロナとかがあって少し時が空いて、2023年のストリートファイター5のラストイヤー、カプコンカップをまた配信で見たんです。そのシーズン、イギリスのエンディングウォーカー選手がスポットライトを浴びて出てきて。若くて新しい人がどんどん出てくるんだと、それに対してときどさんやMAGOさん、どぐらさんのようなベテラン勢が「やべぇやつ出てきたぞ」「こいつはすげぇや!」みたいな話をされているのを見て、やっぱりわくわくするんです。ニュースターが出てくる、その新陳代謝がちゃんとエンターテインメントのコンテンツの中で行われていることがおもしろいなって思って、完全にハマったんです。
ときど そうでしたか!
呉 そしたら急に、「(ストリートファイター)5はおしまいです、次は6です」って。意味がわからない(笑)。ライトユーザーとしては、タイトルが変わることもそうですし、同じタイトルの中で「調整」(*ゲーム内のキャラクターの強さやアイテムの効能などを変更すること)がこんなにもカジュアルに行われるとは思っていなくて、すごい業界だなと。
ときど そうですね、これは他ではないみたいですね、なかなか。
呉 eスポーツでしか行われないシステムだと思いますよ。今年は5で賞金取り合ってたのに、来年からは6に替わって、どんがらがっしゃんイチからです、と(笑)。ほんとすごい業界だなと思いましたよね。
ときど これはプレイヤーからしたら大変ですね(笑)。ゲームのおかげでごはん食べさせてもらっているので我慢してやるんですけど(笑)。でも、5はなんかうまくいかないなと思っている選手たちがけっこういて、彼らがよし6ではやってやるぞ、みたいにもなるので良いバランスで出来ていると思います。「調整」自体は良いものだと思いますね。若手の突き上げが本当にすごいです。
「調整」という独特のシステム
呉 僕が見ていた2018年のガチくんが優勝したカプコンカップで、ガチくんが大会後のインタビューでおっしゃっていたのが「これで自分が使っているラシードが弱くされるかもしれない」というようなことで。僕は「調整」という概念をその頃は知らないので、「は? 同じタイトルの中でキャラが強くされたり弱くされるってどういうこと?」ってなるわけですよ。「そんなこと起こったらおかしいやろ」と。ルールが変わるに等しいですから。たとえるならバットの長さを来シーズンから変えます、3アウト制を2アウト制にします、みたいなもので。「調整」というのは、どれくらいの時期に一般化するのですか?
ときど 根本にあるのはメーカーさんのビジネスなんですよ。同じルールでずっとやると人間飽きるじゃないですか。そこを解消するために手を替え品を替え飽きないようにして、プレイヤー人口を維持することを目的にやられている、というのが根本にあって。その内容、期間などは完全にメーカーの匙(さじ)加減なので……まぁ大変です(笑)
呉 (笑)僕が今回『アトミック・ブレイバー』という小説を書こうと思った当初、格闘ゲームは一要素として登場させる程度だったんです。ただ、書いているうちに「調整」というのが自分のなかでずっとひっかかる。それが、ひっかかるというネガティブよりもだんだんおもしろいなぁ、興味深いなぁとポジティブな方に変わっていったんですよね。プロゲーマーのみなさんの配信を見ているなかで、このeスポーツならではの仕組みは、めちゃくちゃ危ういけどめちゃくちゃおもしろいなと感じるようになって。最近のキャラの調整、全体の調整も本当にベスト、ベターなところに着地しているよねと言われていますが、それはすごいことなんですよね?
ときど すごいことだと思いますね。これまでのゲームの歴史を考えると、個人的に「ここ変えられちゃったか」というのはあるんですけど、全体で見たらこっちのほうがおもしろいよな、という調整が行われていると思うので、今のメーカーさんは上手ですよね。
呉 僕は今回の作品『アトミック・ブレイバー』のなかで、この「調整」、「弱体化(ナーフ)」をいわば「支配」の暗喩、メタファーのように採用したわけなんですが、ときどさんご自身は著作に書かれているように、東京大学大学院在籍時に「試験の制度」という「システム」に憤りを感じられ、その「システム」によって大きく人生を変えられて、挫折を味わったわけですよね。それが、eスポーツほど「システム」に支配されている業界は少ないんじゃないかと思うんですけど、そのなかで活動することには、抵抗は感じないのですか?
ときど ないこともないですけど……昔、すごい楽しいと思ってやっていたゲームがあって、世界で3本の指に入る位の実力があったんですけど、世界大会で勝ったとしても、結局これでごはん食べられないな、という現実問題と向き合わなくてはならない時期があったんですね。自分はこれで勝つことは大切ではあるけれど、もっとこのゲームが流行(はや)って、負けるかもしれないけど、世間にもっと注目されて、受け入れられたほうがいいだろうな、とは思いました。苦しいですけどね、「調整」は。そう考えたほうが楽しいだろうな、と自分に言い聞かせている部分はありますね。

格闘ゲーム小説『アトミック・ブレイバー』
――『アトミック・ブレイバー』は格闘ゲームが重要なモチーフとして登場する小説ですが、最初に格闘ゲームが出てくる小説、と聞いてどんなイメージを持たれましたか?
ときど 最初は小説のなかの一エッセンスとして使われているんだろうなと思っていました。実際読み進めてみるとはじめは生成AIだとか、近未来だったりのディテールが精巧に作られていて、格闘ゲーム抜きに面白いなと読んでいて。それがいざ格闘ゲームが出てくる場面になると、え、これ大丈夫なのかな!? って心配になっちゃうくらい、格闘ゲームのことばっかりのシーンがありましたよね(笑)。あれはわざと格闘ゲームばかりのシーンを書こうと思われたのですか?
呉 そもそも僕はプロットを決めずに小説を書くんですけれど、今回も格闘ゲームは僕が単純に好きだから、主人公の趣味のひとつとして登場させたんです。それがいざ登場させてみたら、これうまく使えるなとなんとなく思って。当初はあんなにゲームの練習をする予定ではないんですね。そんなはずなかったのに、書き進めていくと、これは練習するよな、となって、練習するパートを書くとやっぱり色々書きたくなるんですよね(笑)
ときど めちゃくちゃボリュームすごかったですよね(笑)
呉 あれも書きたい、ああなったらこうなるだろうし、これを書かなかったらちょっと違うよなとなって(笑)。格闘ゲームに限らずだと思うんですけど、ゲームって前提としての予備知識がないとなかなか深く語れないじゃないですか。「フレーム」(*1秒間を60等分した最小の単位)って概念を知らないとわからないことであったりとか、でも全部は書けないわけですよ。作中に出てくる「アトミック・ブレイバー」というゲームは、明らかにスト6的なゲームをベースに書いているんだけど、じゃあ「パリィ」(*ストリートファイター6における、特別な防御技のひとつ)を書けるか、と言ったらそれは難しい。まったく知らない読者に仕組みがすんなりわかって、なおかつスムーズに読み進められるように書くことは難しいんです。だから削っている部分もたくさんあるんですけど、やっぱり書いていておもろいんですよね。
ときど じゃあ格闘ゲームファン心理がもろに出た表現、ということなんですね。
呉 そうですね。あともうひとつは、僕がプレイヤーじゃないから、憧れもありますね。プレイを続ける人への尊敬、憧れが。主人公の堤下与太郎(つつみしたよたろう)という男は冴(さ)えない30代の中年男なんですけど、それでもこいつはコツコツゲームをやることだけは続けるんです。それ自体が僕自身ができなかったことなので、憧れがあって。ここは書かないと、なんか違うなと、自分のなかで。なかなか言語化できないんですけど。一般的にはもっと減らしたほうがいいんでしょうけど(笑)
ときど (笑)途中から違う小説になっちゃったのかなと思うくらい、ゲームのことになって。
呉 そうなんですよ(笑)。しかもこれは難しいところなんですけど、序盤で堤下与太郎はある場所に連れて行かれて、格闘ゲームを練習するんですよ。でも練習段階では、読者はなんでこいつが格闘ゲームを練習しているのかがいまいちわかんないんです。それは僕の小説を書く作法のひとつにあって、「よくわかんないけどやらなくてはいけないことがある」というのを序盤に入れがちなんですよね。「やってることはわかるけど、目的がわからない」っていうのが好きで。これはちゃんと後半まで繋(つな)がりますよ、ってことをほんとはどこかに書きたいくらい(笑)。安心してくださいって注釈で(笑)
ときど (笑)
呉 そういうわけにもいかないから、なんとかあの手この手で期待値を保ったまま進めればいいなと思いながら書いてるんですが、やっぱりシンプルに書いていて楽しかったですね、ゲーム場面は。ただ本当に難しくて。ゲームの細かな駆け引きとかやはり文字にするのも大変だし、僕自身がそこまで理解できているかっていうと難しいですし。あとやっぱり用語。
ときど そうですね。用語は説明されていないからわかんないだろうな、っていうのはかなり多かったです、正直。
呉 そうなんです。それこそ「リーサル」(*相手に一撃でとどめを刺せる必殺技やコンボ)。
ときど そう、「リーサル」が出てきて、これって僕はもちろんわかりますけど、説明されてませんよね。「リーサル」、「詐欺飛び」(*相手が起き上がる瞬間に地面スレスレのジャンプ攻撃を重ねるテクニック)……
呉 「詐欺飛び」は雰囲気で、あれは呪文なんで単に呪文を唱えてるだけと思ってくれればいいんですけど、「リーサル」は意外とちゃんとわかっていたほうが面白いよなというのがあったので難しい。なんとなく、「わかれ~、わかれ~」と思いながらもにょっとした感じで書いてるんですけど(笑)。あんまり説明的にもしたくなかったり。
ときど それはそうですね。あんまりくどく説明されても。
呉 そのバランスっていうのは難しいし、もっともっとゲーム用語が世間に広まってくれたら、僕たちとしては楽だな(笑)というのはありましたね。
ときど この小説のおかげで、ゲームの認知が上がってくれたらいいですよね。

ときどからの質問
ときど 僕からも一つ質問させてもらって良いですか? AIとの対戦がテーマだったじゃないですか。僕たちがやっているのは人対人の対戦なんですけど、今回人対AIを書かれたのは、意図的だったのですか?
呉 格闘ゲームをあの作品のなかにどうやって有機的に組み込もうかと思ったときに、ネタバレになってしまうので言えないんですが、とある方法を思いついたんです。むちゃくちゃだけどこれおもろいやんってなって、これを採用しようとなったときに、人との対戦が不可能になったんですね。もう一つ言うと、もし人相手の対戦にするのなら、敵側のレベルを相当高く設定しないといけない。そうなったら、堤下与太郎というアマチュアに毛が生えたレベルの実力者が、いくらいろんな手を使って練習をしても、1ヶ月やそこらで勝てるようにはならんやろ、と。そこは観(み)るゲー勢としては看過できんなと(笑)。だったらある程度ロジカルな攻略というものが存在して、それに彼がなんとかプレイで追いつく、という形のほうが自分のなかですんなり落ちた、という感じでした。

――『アトミック・ブレイバー』を通して、格闘ゲームの魅力もますます世の中に伝わると良いですね。『アトミック・ブレイバー』は10月22日発売です。お二人ともありがとうございました。
(8月都内「eスポフィールド」にて)


























