『リーダーの傾聴 なぜ、部下の不満に気づけないのか』
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【毎日書評】部内でハラスメントの噂を耳にした…そのとき、まず対処すべきことは?
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『リーダーの傾聴 なぜ、部下の不満に気づけないのか』(濱本志帆 著、総合法令出版)の著者は、これまで多くの職場トラブルの現場に立ち会ってきたという特定社会保険労務士。
なかには「部下が上司に暴力をふるった。解雇してもいいか?」といった使用者からの相談もあれば、「会社が残業代を払ってくれないので訴えたい」というような労働者からの声もあったそう。つまり、使用者と労働者双方の相談に耳を傾けてこられたわけです。
そんななか、見えてきたことがあるといいます。
社長や上司は社員の不満に全く気がついていないこと、不満を抱えた社員はやがて会社を訴える可能性があること、裁判になったら圧倒的に不利なのは会社側であること、大ごとになる前に社員の不満をキャッチして組織風土の改善につなげる方法があること――。
本書では、これら一つひとつの背景、理由、解決策を丁寧にお伝えしていきます。(「はじめに――社労士が見た職場トラブルの現場」より)
「裁判なんて大げさだ」と思われるかもしれませんが、とくに従業員数5〜6人から100人未満の中小企業では起こりがちなことなのだとか。しかも裁判では、会社の言い分よりも「法に違反していたかどうか」が重視されるもの。そのため、トラブルが裁判にまで発展すると、圧倒的に不利になるのはルールを守っていない会社側ということになるわけです。
しかし裁判は、やらないに越したことはありません。そこで本書では経営者や管理職の方々に向け、「どうすれば大ごとになる前に社員の不満をキャッチできるのか」「万が一トラブルが表面化してしまったときにはどう対処すべきか」などを明らかにしているのです。
そんな本書のなかから、きょうは第5章「ハラスメントを早期解決する方法」に焦点を当ててみたいと思います。
ハラスメントの噂を耳にしたときの初動
パワハラを経験した人の勤務先にある特徴のひとつとして、「上司と部下とのコミュニケーションが少ない」ことが挙げられるそうです。
だとすれば日ごろからコミュニケーションを活発にし、様子が気になる部下や後輩、同僚にもさりげなく声をかけられるような関係性を構築することが意味を持つのではないでしょうか。
パワハラ問題は、行為者と被害者という当事者だけの関係性にとどまるものではありません。たとえば、同じフロアで上司が部下を激しく叱責しているとしましょう。そんなときは自分が直接怒られていなかったとしても、その場に居合わせるだけで気まずさやストレスを感じるもの。
同じ空間にいるだけでも、仕事に集中できず、職場全体のモチベーションに影響を及ぼす可能性があるわけです。したがって、普段から「SOSを発信しやすい関係性」を意識しておくべきなのです。
ポイントは、怒られた部下や後輩だけではなく、怒っている上司や先輩に対しても同じように「何かありましたか?」「大丈夫ですか?」と声をかけることです。
原因となった出来事(怒られたことなど)には触れずに、「元気ないけど何かありましたか?」というふうに、今の様子だけに言及することもポイントです。(227ページより)
ただし、過度な立ち入りは逆効果になる場合もあるもの(私的なことに過度に立ち入ることもパワハラに当たるそうです)。相手が「そっとしておいてほしい」と思っているなら、無理に踏み込む必要はないのです。そこで、一度声をかけて反応を見てみるといいようです。(226ページより)
ハラスメント対応のポイント3選
ハラスメント対応には、傾聴技術、人権やメンタルヘルス、ダイバーシティ、LGBTQに関する知見を深めること、さらには使用者としての責任や法律の知識の習得などが求められます。とはいえそうしたスキルを身につけるための時間やエネルギーを割くことは、決して簡単ではありません。
そこで著者は、ハラスメントを拡大させないために押さえておきたいポイントを3つにまとめています。それぞれを確認してみることにしましょう。
① プライバシー保護
まず重要なのは、相談者のプライバシーを守ること。相談者は現状の改善を望んで、不安や葛藤を抱えながらも勇気を出して相談に訪れるもの。打ち明ける行為そのものが、大きなハードルであるわけです。
そのため相談者を傷つけることがないように、相談内容を第三者に漏らさない「守秘義務の徹底」が不可欠。話した内容は、その記録媒体も含め、触れることができる人を限定する必要があります。
② 情報共有の範囲
ハラスメント相談を受ける際には、相談者の希望を確かめながら情報の取り扱い方を決めるべき。情報共有の範囲には「共有する人の範囲」と「内容の範囲」があり、つまりは「誰に」「どの程度まで」話してよいかの共通認識を相談者と持っておくということです。
③ 話したいことを話してもらう
一次対応は基本的に、相談者が話したいことを話してもらう段階。言いたくないことを、無理に言わせるのは望ましくないわけです。もし話したことを後悔させるようなことがあれば、その後の協力を得ることが困難になります。事態解決のために話を聞く必要があることは、そのように説明して納得のうえで話してもらうのです。
一次対応の役割や目的が定められているのではない限り、基本的には会社側が相談者の話す内容を取捨選択することはありません。上司が「それはここで聞くべき話ではない」と感じるような内容だとしても、まずは遮らずにひととおり聞くべき。
たとえ、それはハラスメントとはいえないと感じたとしても、相談者がハラスメントだと訴えているなら、その気持ちを一度受け入れます。「この人は、ハラスメントと訴えているのだな」と受け止めることが、信頼を得ることにつながります。(240ページより)
上司や社長は、ハラスメントに対して過剰に反応してしまうことがあるかもしれません。しかしそのせいで「相談者のほうが悪い」などということがあったら、今度はそれがハラスメントとして受け取られてしまうかもしれないのです。(236ページより)
トラブルが法的な争いに発展したとき、多くの経営者は「なぜ、ここまで大ごとになる前に対処しておかなかったのだろう」と後悔するといいます。そうならないように、早い段階で本書を参考にしておくべきかもしれません。
著者紹介:印南敦史
作家、書評家、音楽評論家。1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X
Source: 総合法令出版


























