『「美食の国」フランスの誕生』梶谷彩子著

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「美食の国」フランスの誕生

『「美食の国」フランスの誕生』

著者
梶谷彩子 [著]
出版社
慶應義塾大学出版会
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784766430554
発売日
2025/09/30
価格
2,970円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『「美食の国」フランスの誕生』梶谷彩子著

[レビュアー] 産経新聞社

■ブランド確立の歴史

フランス料理は、世界に認められる「美食」の地位をどのようにして築いたのか。主に19~20世紀にかけてのフランスの食文化の歴史をたどり、その理由を解き明かす。

著者の博士論文をもとにした学術書で、副題は「ガストロノミーが作ったおいしい歴史」。「美食学」とも訳される仏語のガストロノミーは、「ただ食べるのではなく、味覚を研ぎ澄ませる訓練を積んだうえで食生活を送り、料理や食卓作法に美しい形式を与えることで快楽を生み出すためのもの」(本書より)。食生活に文化的価値を見いだすフランスならではの考え方だ。

その歴史は19世紀に花開く。ベルサイユ宮殿の王侯貴族たちが追求した美食は、フランス革命を契機に宮廷の外へと飛び出した。革命後の1825年には、美食家のブリア=サバランが「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人か言い当ててみせよう」という一文で知られる『美味礼讃(邦訳題)』を出版。美食を言語化し、喧伝(けんでん)する「ガストロノミーの書物」というメディアが流行し、パリにはレストラン黄金時代が到来して、「美食の都」となった。

20世紀に入ると、ガストロノミーとツーリズムの連携がフランスを「美食の国」へと押し上げていく。技術革新や社会情勢の変化は「地方振興」と旅行の普及を促した。地方料理が見直され、ガイドブックが誕生。なかでも『ミシュランガイド』は日本でも知られた現代の権威だ。

フランス料理の世界的なブランドの確立は、ガストロノミーによる裏付けがあってこそ。料理は食べれば消える瞬間芸術だが、それを記録し、評価する美食家たちが存在したことで「食べる」という基本的な生活行動が、広く文化にまで昇華されてきた。

物事がいかに価値を見いだされ、広く定着していくのか。ガストロノミーの歴史からは、ブランディング戦略におけるメディアの重要性についても考えさせられる。(慶応義塾大学出版会・2970円)

評・三宅令(文化部)

産経新聞
2025年11月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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