「意識高い系」のセミナーに参加し、ポジティブなマインドを学んだ話

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世界はハラスメントでできている

『世界はハラスメントでできている』

著者
辛酸なめ子 [著]
出版社
光文社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784334107963
発売日
2025/10/16
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】「意識高い系」のセミナーに参加し、ポジティブなマインドを学んだ話

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

近年、コンプライアンスやハラスメントのルールがますます厳しくなっているように思います。情報化社会でSNSが普及したことで、個人や企業の発言が拡散し、倫理観が欠如していると捉えられるとあっという間に炎上してしまいます。何かやらかすと、一生批判されつづけかねないので、慎重にならざるを得ません。「不適切」の烙印を押されたら、信用を取り戻すのが難しい世の中です。(「まえがき」より)

世界はハラスメントでできている 辛酸なめ子の「大人の処世術」』(辛酸なめ子 著、光文社新書)の冒頭には、このような記述があります。共感できる方も多いのではないでしょうか。

ハラスメントでいえば、先日、大手企業に勤める知人が、

前髪切った? と聞くのもハラスメントになるかもしれないので、何も話せないと言っていました。

もはや雑談では天気の話しかできなくなり、本音はAIにぶちまけるという世の中になってしまう予感が。(「まえがき」より)

もちろん、倫理観や常識が重視されるのは、基本的にはよいことでしょう。とはいえ、「ひと昔前には当たり前だったことが、いまでは絶対的にNG」というケースも少なくないだけに、人間関係、とくにビジネスの現場では高度な気遣いが求められることになっていたりもします。

そもそも、完璧にやろうと意気込んでみても、なにかとうまくいかないのが現実。結局のところ、知らないうちにやらかしてしまったりするのが人間なのかもしれません。

それに、あまりカリカリしすぎると、カリカリしている本人も疲れてくるのではないでしょうか? そうなると、突っ込む側も突っ込まれる側も疲れてしまうので、あまり健全ではないようにも思えます。

そこで、本書の出番。

辛酸さんはここで、「こういう時代に自分らしく生きるには、ふっと気を抜いて脱力するにはどうしたらいいか」を考えるべく、“日常の中でのささやかな挑戦”を通じて試行錯誤した体験を綴っているのです。

「令和の精神論――すべては気から」内の、「『自己肯定感高い系』の人たち」というトピックスに焦点を当ててみましょう。

自分の経歴を遠慮せずにアピールする

人生100年時代といわれるなか、辛酸さんも少しずつ焦燥感にかられてきたそう。そのため、インスタで意識高い系や能力開発系のセミナーを見つけると、ついクリックしてメルマガ登録したりオンラインセミナーを受けたりしているのだとか。

しかし、そういったセミナーの主宰者やグローバルで活躍していることを強調する人には“クセつよ系”が多いのも事実です。

グローバルで活躍する人の特徴として、自分の経歴を遠慮せずにアピールする、という点が挙げられます。日本人ならではの謙遜の姿勢で「たいしたことはしてません」「なんとか仕事を続けられています」などと言うと、海外の人にはその通りに受け取られてしまいます。大昔、アップルの発表会でジョブズと目が合ったという体験があるので、それを生かし「ビジネスシーンでジョブズとアイコンタクトを交わした」などと、盛って言いたくなります。(105〜106ページより)

またプレゼンや講演などでも、自己紹介がてら少しばかり“盛った経歴”を口にすることが効果的である場合もあるようです。そうすれば観客に、「すごい人の話が聞けて、この時間はムダじゃない」と思ってもらえるかもしれないからです。

受講されたオンラインセミナーに登壇した“ポジティブな印象の年齢不詳の女性”も、「ストレスの中で平穏を作り出す方法」「身体をより意識的な状態にする方法」「世界トップの大学も認める最も効果的な瞑想」「望むものを人生に引き寄せる方法」「情熱的な人生を保障する秘密」という「学ぶ5つのポイント」を最初に明示したそう。

講演では、このように最初に話のポイントを公開する、というのも重要なテクニックだと学びました。(106ページより)

講演会でのアンケートに「講演に向いていないと思いました」と書かれトラウマがあるという辛酸さんにとって、これはよい学びだったようです。(103ページより)

ポジティブで自己肯定感が高い

ネットでの体験だけではなく、リアルの意識高い系(年収高い系)のセミナーに参加したときのエピソードも紹介されています。

ブロードウェイで俳優として活躍しているバイリンガルの由水南(ゆうすいみなみ)さんが、外資系金融会社で働く人の集まりで、英語で講演をされるというのです。友人の誘いで見学に伺いました。(109〜110ページより)

つねに笑顔を浮かべ、完全にネイティブな英語でよどみなく話す姿がかっこよかったそう。自信と自己肯定感にあふれていたため、まず、自分はそこが足りないと実感したといいます。

オンラインやリアルで学んでみた結果として感じたのは、どの登壇者もポジティブで自己肯定感が高いという共通点だそう。

私は謙遜のエネルギーが強すぎて自己肯定感も下がってしまっていたと自覚。自分に足りないものを改めて把握し、人前で話すテクニックや英会話などを学ぶことができました。(113ページより)

リアル会場では外資系のエリートたちのオーラやエネルギーも吸収。また、ありがたいことにピンチョスのあまりがボックスに入れられ、持って帰れるようになっていました。リッチな会社のホスピタリティに感じ入りました。(113ページより)

ちなみにその際、参加者の世界最大級の金融グループ所属の外国人男性に「エリートですよね?」と聞いたところ、返ってきたのは「ボチボチです」との答え。なかなか味のある返答ですが、謙虚になりすぎないマインドはさすがだともいえそうです。(108ページより)

辛酸さんは「制約やルールは抑圧ではなく、自分が安全に活動するための目安だとポジティブにとらえ、心は萎縮しないようにしたいです」とも述べていますが、きっと、そんなスタンスでいたほうが生きやすくなるはず。ストリクトリーな日常から抜け出すために、適度なゆるさが心地よい本書を参考にしたいところです。

著者紹介:印南敦史

作家、書評家、音楽評論家。1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X

Source: 光文社新書

メディアジーン lifehacker
2025年11月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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