『人間の心が分からなかった俺が、動物心理学者になるまで』
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山あり谷あり、遠回りありの思わず笑みのこぼれる、終わらない青春記
[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)
動物心理学者である岡ノ谷一夫さんは、鳥のさえずりなど動物の音声コミュニケーションから「言語」や「心」の起源を探る研究をしている。
では、1959年に栃木県の足利市にある水道屋の息子として生まれた一人の男は、いかにして日本を代表する研究者になっていったのか――。「青春とは何か」という深遠な問いから書き始められる本書には、数々の思い出を回想しながら、自らが研究者になっていった道程が描かれている。
山あり谷あり、遠回りありの思わず笑みがこぼれる数々のエピソードを読むうち、なんと豊かで起伏に富んだ半生を歩んできた人なのだろう、と思う。
「逆さ語クラブ」なるものを作ったり、人がロボットに見えたりした少年時代。多くの恋とギターに彩られた高校・大学時代。そして、アメリカ留学や夜道を「酒と泪と男と女」を歌いながら歩いた「ポスドク蟻地獄」を経て、ついにたどり着いた大学教員と怒涛の研究の日々――。
留学先で英語がまだ得意ではなく、講義を全て録音して6回は聞き直したという勤勉さに感心し、恋人とバカンスに訪れた島でジュゴンに抱き付かれたエピソードに驚愕する。
80年代を回想するノスタルジー、現状を突破していく無鉄砲な若さのパワーなどなど、著者の熱い思いがそこかしこに溢れ出る描写が魅力的だ。
あっちにふらふら、こっちにふらふら。寄り道をしながら悩み、泣き、揺るぎない好奇心によって世界の一端を解き明かそうとする“おかぽん先生”。そんな自身の姿をたっぷりの笑いと哀愁を以て描く筆致は見事で、青春とは年齢のことではなく心の持ち方だというサムエル・ウルマンの有名な詩が胸に浮かんだ。理想を追い求め、未来の可能性に懸ける希望の火を心に燃やし続ける――。そうする限り、青春とは決して過ぎ去らないことを教えてくれる一冊だ。


























