『宮沢賢治全集 6』
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どこかずうっと遠くの方を見てゐました
[レビュアー] 北村薫(作家)

宮沢賢治(出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」より)
名著には、印象的な一節がある。
そんな一節をテーマにあわせて書評家が紹介する『週刊新潮』の名物連載、「読書会の付箋(ふせん)」。
今回のテーマは「毒薬」です。選ばれた名著は…?
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『銀河鉄道の夜』のカムパネルラや「永訣の朝」の妹とし子、そして死の間際まで他者のために尽くした作者、宮沢賢治自身を思う時、読者は彼の作品に登場するのは、みな自己犠牲をいとわぬ真っすぐな存在のように思いがちです。そこで、「ツェねずみ」や「クンねずみ」などに出会うと、あっと驚く。
では、「毒もみのすきな署長さん」はどうか。
プハラの国で守るべき決まりは「火薬を使って鳥をとってはなりません、毒もみをして魚をとってはなりません。」でした。毒を袋に入れ、水の中にもみ出すのが毒もみ。たちまち多くの魚が白い腹を見せて浮き上がります。この漁をする者を捕らえるのが、プハラの警察の一番の仕事でした。
新しく赴任した署長さんは、どこかかわうそに似て、赤ひげをピンとはねさせ、歯はみんな銀の入歯、立派な金モールのついた長い赤いマントを着ていました。
署長さんは熱心に河原を見張っているようですが、毒もみの犯人は捕まりません。被害は広がるばかり。たまらず、町長さんが警察署に出向きました。
二人が一緒に応接室の椅子にこしかけたとき、署長さんの黄金いろの眼は、どこかずうっと遠くの方を見てゐました。
さて、話の最後で、署長さんは何というでしょう。
こんな物語まで書けるところに、宮沢賢治という作家の、底知れぬ深さがあります。


























