【書評】何度もつまづき迷いながら運命に導かれるように夢への階段を登っていく――関 かおる『小麦畑できみが歌えば』レビュー【評者:高頭佐和子(書店員)】
レビュー
『小麦畑できみが歌えば』
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【書評】何度もつまづき迷いながら運命に導かれるように夢への階段を登っていく――関 かおる『小麦畑できみが歌えば』レビュー【評者:高頭佐和子(書店員)】
[レビュアー] 高頭佐和子(書店員。本屋大賞実行委員)
「わたしはなりたかった。音楽をするために生まれてきたひとに」
『みずもかえでも』で第15回 小説 野性時代 新人賞を受賞しデビューした著者の、受賞後第一作!
関 かおる『小麦畑できみが歌えば』の発売にあわせて、書店員・高頭佐和子さんによるレビューをお届けします。
■関 かおる『小麦畑できみが歌えば』レビュー

【書評】何度もつまづき迷いながら運命に導かれるように夢への階段を登っていく…
評者:高頭佐和子(書店員)
オーディション番組が話題になることが、近年多くなった。それぞれの思いを抱いて集まったスター候補生たちの挑戦を、応援しながら楽しんでいる人は多いだろう。今すぐにでも舞台に立てる完璧なパフォーマンスをする人は、もちろん目を引く。だが、何かが不足していたり未熟さが目立つのに、強く人を惹きつける魅力を持った挑戦者もいる。もっと輝く姿を見たい、成長を見届けたいという気持ちになり、目が離せなくなるのは後者ではないだろうか。この小説に登場する塚田唯吹は、まさにそういうタイプのヒロインだ。ただし目指すのは、人気アイドルではない。オペラの舞台に立つことだ。
オペラと聞くと、なんだか難しそうだと思われる方もいらっしゃるかもしれない。だが、この小説を読むために特別な知識は全く必要ない。主人公は、うつくしい声へのあこがれとある人を追いかけたいという思いでオーディションに挑み、何度もつまづき迷いながら運命に導かれるように夢への階段を登っていく。その姿を見守っているうちに、オペラというなじみのなかった世界への関心も自然と高まっていく。
高校を卒業し実家の小麦畑を手伝っている唯吹は、歌うことが大好きな女性だ。彼女の地元・北海道のコンサートホールから物語は始まる。毎年この場所で行われるオペラプロジェクトのキャストを決めるオーディションに、祖母の勧めで参加することにしたのだ。まずは音合わせで歌おうとすると、伴奏者から止められてしまう。一次審査ではオペラから独立した歌曲を歌うことになっているのに、唯吹は確認不足からオペラに含まれるアリアを選んでしまったのだ。会場で知り合った女性から歌曲集を貸してもらい、思い出の曲である『アメイジング・グレイス』を歌うが合格することは叶わなかった。ところが、帰ろうとする唯吹を伴奏者が引き止めにくる。なんと、地元出身のソプラノ歌手でオーディションの審査を務めていた梶景子が、会いたがっているのだという。唯吹は7年前、祖母に連れられてきたこのホールで彼女が歌う『アメイジング・グレイス』を聴いてから歌うことが好きになったのだ。景子は技術の未熟さを指摘しつつも「風が吹いているみたい」と唯吹の声を評価し、驚くべきチャンスをくれる。アメリカにあるアンバー・オペラハウスのサマープログラムに参加するための、日本国内審査会のオーディションに招待してくれたのだ。合格すればサマープログラムでレッスンを受けられる。途中の審査に不合格となれば帰国しなければならないが、優勝すればオペラハウスの研修生になれるのだ。
オペラ歌手って、音大などで専門的な勉強をした人が目指すものなのでは? 情熱と素質があっても、それだけで舞台に立つなんてできるのだろうか。そう考えた人も多いと思うが唯吹自身もそれを気にしている。自分がこの場所にいてもいいのかと悩みながらもオーディションに参加した唯吹は、唯一無二の親友である岩崎寧音に再会する。アメリカ人の祖母を持ち、瞳の色が人と違うことで心ない言葉をかけられていた少女時代、オペラとの出会いと寧音と一緒に歌うことが、唯吹の日々を明るく照らしてくれた。うつくしい声を出したい、大好きな小麦畑で歌っていたいという気持ちが、舞台に立ちたいという願いに変わったのは、夢に向かって着実に進んでいる寧音に追いつきたいと願ったからだ。
「勝って、世界に歌で認められたい」。はっきりとそう口にする寧音や、明確な目標を持ってオーディションに挑む他のライバルたちと違い、唯吹はぼんやりとしているし自信なげでもある。だが、その特別な声とまっすぐに歌うことを愛する気持ちは、さまざまな立場の人の心を動かす。そして、いつしか読者である私たちも、彼女を応援せずにはいられなくなるのだ。
それぞれ事情を抱えた多様な国籍のライバルたちの存在と、演じる役と向き合う時間が唯吹を成長させる。緊張感あふれるオーディションシーンにドキドキしながら、夢に向かって走り出す主人公の姿を最後まで見届けていただきたい。
読み終わった私が応援したくなった人物がもうひとりいる。この小説が二作目となる著者の関かおる氏である。関氏は小説 野性時代 新人賞を受賞したデビュー作『みずもかえでも』(KADOKAWA)で、落語に魅せられて演芸写真家を目指していたものの、ある失敗をきっかけに諦めてウェディングフォトの会社に就職した女性を主人公にしている。迷いながらも夢を追う決意をする人の心境を鮮やかに描けるのは、著者自身が小説への思いを強く持ち、夢のスタートラインに立つことの難しさを知っているからなのではないだろうか。落語やオペラなど、馴染みのない人も多いであろう芸術の世界を親しみやすく魅力的に描く技量にも確かなものがある。この小説を読み唯吹を応援したくなった読者の皆さまには、今後の関かおる氏の活躍に注目していただきたいと思う。



























