今思い出しても涙が出そう…「明石家さんま」のカッコよすぎる一言とは? 「電波少年」伝説のプロデューサーによる『人間・明石家さんま』評

レビュー

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人間・明石家さんま

『人間・明石家さんま』

著者
吉川 圭三 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784106111037
発売日
2025/10/17
価格
946円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

[レビュアー] 土屋敏男(元日本テレビプロデューサー)


明石家さんま

 人を笑わせることに関しては恐ろしいほどに貪欲で、70歳にして今なお第一線で活躍を続けるお笑い芸人、明石家さんま。

 率直な物言いと底抜けに明るい人柄には見る者の多くが惹かれてきたが、どこか人間離れしたそのエネルギーの奥底にいったい何があるのか――?
『人間・明石家さんま』は、長年、公私ともにさんまと親交を深めてきた元日本テレビプロデューサーの吉川圭三さんが「人間としての明石家さんま」の実像を豊富なエピソードを盛り込みながら描いた一冊である。

 吉川さんと同様、日本テレビで長年、バラエティ番組に携わり、「進め!電波少年」等、数々の名番組を生み出した伝説のプロデューサー・土屋敏男さんはこの本をどう読んだか。思い出したのは、土屋さん自身がさんまにかけられた「カッコよすぎる一言」だったという。以下、土屋さんによるレビューである。

 ***

今思い出しても感激で涙が出そうになる「カッコよすぎる一言」

昔さんまさんの一言に心を撃ち抜かれたことがあった。僕は人気のある人とは仕事ができないのでさんまさんと仕事らしい仕事というのはただ一回だけである。

「NHK×日テレ60番勝負」という開局60周年の記念番組。2013年の2月に放送された。『そう言えばさんまさんNHK出ないよな?何故なんだろう?』とふと思ったのがきっかけで人を介して「こういう番組なんですけど出ませんか?」と声を掛けさせてもらった。

僕はこの本にも出てくる楽屋トークに参加させてもらえるような関係ではないから直接お願いができない。長いこと返事がなくて正直諦めていた。それが生放送の10日前、間に立ってくれた人から「さんまさんが出てもいいと言ってる。ただ条件がある。俺に30分枠をくれたら」生放送の10日前だ! NHKと一緒に作っている分だけ1秒2秒を切り刻んで構成会議をやっている最中の返事だった。

しかし「やろう!」と思った。ここで断るバカはテレビ屋じゃない!と思った。

そう言えばもう一つ条件があった。事前に一切告知をしないこと。

生放送本番。それは言うまでもなくテレビ屋にとっての至福の時間だった。

そして終了後、さんまさんにお礼を言おうと思って走って追いかけた!

「本当にありがとうございました!」

すると後ろ姿のまま、

「テレビがおもろい事やろうという時に声かけてくれてありがとうな!」

今思い出しても感激で涙が出そうになる! そして本当にカッコよかった!!

そうだやっぱり明石家さんまは聖人だった! この本のタイトルは「(聖)人間・明石家さんま」にすべきだ!

修行僧のよう

思い出しついでに僕がさんまさんに影響を受けてやろうと思っていること。

子供に一銭も残さない。

子供達の人生は良くも悪くも自分だけの力の人生であるようにするのが親がすべきこと。子供を愛すればこそ、子供の人生に何かを与える、残すことは子供の人生を汚すことになる。すべきではない。それが親の愛情の純粋な形。ぼんやりと思っていたことだった。さんまさんがそう考えていると言うのを聞いて決めた。

僕は今のバラエティ番組をほとんど見ない。しかし何故か録画して毎週見なくてはいられない番組がある。フジテレビの「お笑い向上委員会」。あれはさんまさんの純度100%のお笑いに関する番組なのだろうと思っている。今の笑いとは何かというドキュメントでもありその中で現役であることを確認する場所でもありそして何よりも「お笑いとはこうあるべし」という姿を下の世代に体を張って見せる場所。高僧が後輩の修行僧に修行の果てに自らが即身仏になるのを手伝わせてそれで教えるということをやっているように見える。

これは「終活」なのか

もう一つ最後の「長〜いあとがき」を読んで、そうかそうだったのか!と思ったことを書く。

何故この本を書くことをさんまさんが許したのか?

11年前にその時点で20年以上の付き合いのちょっとお間抜けな愛すべき吉川の「さんまさんについての本を書きたい」というお願いにはっきりとNOと言ったのに今回は何故Yesだったのか?

さんまさんとほぼ同年代だからそうではないかと思うところがある。

さんまさんにとってのこれは終活の一つなのではないか?

吉川と30年以上の付き合い。家族ぐるみのオーストラリア旅行。そんな縁を結んできた人間が頼んできたものはもう自分の人生の縁だろうと考えた。書かれたくないことも書かれてしまうかもしれない。さんまさんの徹底したプロ意識からは11年前と同じ返事なはずだ。

でもそれももういいか、と思った。

終活だ。僕もまさに今終活として「世界百周」という企画を始めているのだが“今死んでもいい態勢で日々を生きる”からではないか?

お笑い聖人・明石家さんまがどう死ぬのか? つまりはどう生き抜くのか?

絶対に目を離してはならないと改めて思わせてくれた本だった。

新潮社
2025年11月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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