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ふとした記憶の違いから、自分が妖精女王の恋敵になってしまって……傑作ファンタジー
[レビュアー] 宮下遼(トルコ文学者)
〈1〉『九年目の魔法』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著、浅羽莢子訳(創元推理文庫、1540円)
〈2〉『中国奇想小説集 古今異界万華鏡』井波律子編訳(平凡社ライブラリー、1980円)
〈3〉『頂点都市』ラヴァンヤ・ラクシュミナラヤン著、新井なゆり訳(創元SF文庫、1650円)
ふとした記憶の齟齬(そご)から、幼き日の恋をめぐって自分が妖精女王の恋敵になってしまったことを思い出す『九年目の魔法』。同作者の「ハウルの動く城シリーズ」と同じく少女が過去や立場という呪いを解きほぐしていく成長の物語だ。幻想小説の名著の数々を通して育まれる恋と女王の巡らせる陰謀が絡み合う複雑な物語だけれど、むしろそれを読み解いていく過程こそが純な恋を守(も)り立ててくれる傑作ファンタジー。
六朝から清代までの不思議譚(たん)を訳出する『中国奇想小説集 古今異界万華鏡』。時代が下るほどに語りこそ説話から小説的なそれへと変遷していく反面、現世と常(とこ)世(よ)の間の境は人間が思うよりもずっと曖昧だという、おそらく前近代の人類がなんとなしに共有した世界観は通底するのが興味深い。イスラーム世界を学ぶ評者は、各話に付された丁寧な解説を通して物語の伝(でん)播(ぱ)譚に思いを馳(は)せるのも楽しかった。
『頂点都市』は連作短編の皮をかぶった長編SF。生産性の多寡を指標に、都市への貢献度によって人々が階層分けされるディストピア都市の姿を点描のように繋(つな)ぎながらその繁栄と崩壊を描き出す。作品と作者はある程度、分離されるべきだとは思うが、いまなおカースト差別に苦しむインド出身の作家が、その桎梏(しっこく)を破った暁に訪れるはずの実力主義社会の暗澹(あんたん)たる未来を想像することには底知れない恐ろしさがある。=寄稿=























