『言語化するための小説思考』
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<書評>『言語化するための小説思考』小川哲 著
[レビュアー] 重里徹也(聖徳大特任教授・文芸評論家)
◆意識の深みに物語をまさぐる
小説の価値は何によって決まるのか。誰が小説の優劣を決めるのか。面白い小説とはどういうものか。
小川哲は今の日本で最も魅力的な物語作家の一人だろう。そんな著者が手の内を明かしながら、小説のあるべき姿を問う。読みやすいのだが、ときどき本を置いて、いろいろと考えたくなる一冊だ。
小説を書き進める時の著者の脳の中を垣間見る面白さがある。ああでもない、こうでもないと掘削していく感じ。その軌跡の味わいが楽しい。それは結果として、小説創作の深いガイドになっている。
小川の小説観で一貫しているのは「小説はコミュニケーションである」というものだ。作家と読者が交流する場所としての小説。
ここで面白い現象が起きるように思える。小川は読者とコミュニケーションを深めるために、さまざまに物語をまさぐる。その過程が意識していなかった深みをえぐり出すように見えるのだ。小川はそうすることで、自身の無意識から物語の断片をすくい上げているのではないか。
小川の小説にはメタレベル(小説内で起こっていることを少し高い視点から相対化してとらえること)の面白さがある。それが独特な冷えたユーモアを醸し出している。この知的でシニカルな感覚が小川作品の魅力の一つだ。
多くの文例が楽しい。「桃太郎」の物語をどのシーンから、どういう語り方で書けば面白いか。10年ぶりに小学校の同級生と会う話や、入社試験の面接官がマッチングアプリで知り合った女性と面接会場で再会する話では、情報の順番について説かれる。「僕」の前では無口な美容師が他の客に対してはそうではなかったというエピソードからは、偏見やコミュニケーションについて考察する。
最後には編集者とのやりとりを通して、小説執筆の実際を披露する短編「エデンの東」も収録され、小川の思考が具体的に理解できる。ここでいう「小説」は「ビジネス」や「事業」にも置きかえられるのではないか。そんなことも考えさせられた。
(講談社・1210円)
1986年生まれ。作家。『ゲームの王国』『噓と正典』など多数。
◆もう1冊
『地図と拳』(上)(下)小川哲著(集英社文庫)。満洲(現中国東北部)が舞台の直木賞受賞作。


























