『言語化するための小説思考』
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【聞きたい。】小川哲さん 『言語化するための小説思考』
[文] 産経新聞社
■面白さに貪欲なゾンビ
ディストピア(反理想郷)もののSFに始まり、カンボジアのポル・ポト政権や満州国、そしてクイズプレーヤーを題材にした知的エンタメまで、硬軟自在に作品を生み出し続ける人気作家は、小説を書くときに何を考えているのか。本書は「面白いとは何か」を誰よりも考え続けている小説家の頭の中をのぞける一冊だ。
「例えば僕は『コンテナ物語』というノンフィクションが好きなんですが、その本を読むとトラックの荷台の形や輸送料金の高低について考えるようになる。今まで自分が気にもしていなかった、新しい視点をもらえるのが読書の面白いところですよね」
冒頭の書き出しや会話文といった小説の具体的な書き方を論じてはいるが、名文・美文を集めたいわゆる文章読本や、文章指南の創作術とは一線を画する。小説を徹底して「作者と読者のコミュニケーション」ととらえ、読者に伝わる表現を選び抜くまでの自分の思考のプロセスを示す。重要なのは、「相手があなたのことを知らない」という前提に立つことだ。
「小説の新人賞の選考委員もやっていますが、応募原稿は僕の頃よりもレベルが高い。起承転結を作るような技術の平均値は上がっているなと。だからもうちょっと根源的な、何を書くのかという部分を『僕はこうやっている』と伝えたかった」
若い頃は「中身のないペラペラの小説が売れている」ことに腹を立てていたという小川さん。しかし、いったん自分の価値観を捨てて「なぜペラペラの小説を支持する読者がいるのか」と考えてみると、その読者たちと自分のギャップが見えてきた。そこに「まだ自分の知らない小説があるのではないか」と興奮するのだという。
「今の自分は、面白い小説について考えるために自分の価値観などの邪魔なものを捨てていった〝小説ゾンビ〟。僕が嫌いな作品がヒットしていると、むしろ『まだ成長のチャンスがあるぞ』と腕まくりしますね」。面白さを追求するゾンビはどこまでも貪欲だ。(講談社・1210円)
村嶋和樹
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【プロフィル】小川哲
おがわ・さとし 小説家。昭和61年、千葉県生まれ。平成27年に『ユートロニカのこちら側』でハヤカワSFコンテストの大賞を受賞しデビュー。30年に『ゲームの王国』で日本SF大賞と山本周五郎賞、令和5年に『地図と拳』で直木賞。


























