『真夜中のパリから夜明けの東京へ』
- 著者
- 猫沢 エミ [著]/小林 孝延 [著]
- 出版社
- 集英社
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784087881356
- 発売日
- 2025/11/26
- 価格
- 1,870円(税込)
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猫沢エミ、小林孝延『真夜中のパリから夜明けの東京へ』を宮下奈都さんが読む
[レビュアー] 宮下奈都(作家)
手紙だからこそ
それぞれに大切な存在を亡くした、パリと東京に暮らすふたりの往復書簡集である。なぜ手紙という方法を使うことにしたのか、明確な答えは書かれていない。でも正解だったということだけはよくわかる。
最初の手紙で猫沢さんが「相手のすべてを知っているか、知らないかは、実は真に親しくなることとはあまり関係がないと思っている」と書いていて、それでもう完全に巻き込まれてしまった。文は人だと思う。猫沢さんの書く文はまっすぐ胸に飛び込んでくる。相手のすべてを知ることなどまるでできないことを私たちは身に沁みて知っている。だからこそ手紙なんだ、と思った。すべてではなく一部分しか書けないけれども深くつながることもできる特別な方法。第一便のタイトル「ガラス越しのふたり」の通り、最初はまさにガラスの向こうから相手を確かめあうようだったのに、少しずつお互いの心がノックされ開かれていく。
大切な存在の死によって深く抉(えぐ)られた傷が癒えることを願うと、亡くなった相手への後ろめたさを感じてしまう。つらい時期をどう乗り越えたのか書こうとすれば、乗り越えたということにさえ罪悪感を覚えてしまう。葛藤しながらもふたりは、生きること、死ぬこと、その間にあるたくさんのよろこびや悲しみを手紙にする。大変な作業だけれど、やりとりを読み進めるうちに、私の中にもあった古い傷が癒されていくのを感じた。
私は小林さんが編集長だった「ESSE」に六年以上もエッセイの連載をさせてもらっていた。でも実はそれ以前に高校の同級生でもある。すごく人気があってビカビカ発光しているような人だった。放課後、白いユニフォームにラケットを携えてテニスコートへ歩いていく姿を今も思い出す。この本の終わり近くに、結婚して間もない頃の小林さん夫婦の写真がある。見た瞬間、胸をぎゅっとつかまれた。あのビカビカだった光がやわらかくやさしくなった二十代の小林さんが笑っていて、そこからの気の遠くなりそうな三十年を思った。ほんとうにがんばってきたんだね、と思う。ありがとう、私も生きる勇気が湧いてきました。
宮下奈都
みやした・なつ●作家


























