『戦略のデザイン』
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【毎日書評】戦略は「モノづくり」や「コトづくり」を経て、「場づくり」の時代になった!
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
「戦略を考えてほしい」といわれたときに、なにをどこから始めればよいのかと戸惑う方は少なくないはず。『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(坂田幸樹 著、ダイヤモンド社)の著者によれば、それは年齢や役職に関係なく、多くの現場で実際にあることのようです。
企業における戦略と聞けば、頭に浮かぶのは中期経営計画や予算策定かもしれません。たしかに、ゴールが明確に定められていた時代には、そうした仕組みが組織全体を効率的に動かすうえで有効に機能していました。
しかし、いまやビジネスの常識や成功パターンは急速に陳腐化しつつあるのだと著者はそう指摘しています。そのため、これまでの延長線上に未来を描くことは難しくなってきているのだとも。
これからの戦略策定に必要なのは、時間をかけて精緻な計画をつくることではありません。必要なのは、「変化を見極め、状況に応じて柔軟に刷新し、自らの道筋を動的に描き出す力」です。
本書では、これを「戦略をデザインする力(戦略デザイン力)」とネーミングします。(「はじめに」より)
なお、こうした力は、一部の経営層だけに必要なものだというわけではないようです。つまり現場のリーダーを含めた、すべてのビジネスパーソンに求められるべき力だということ。
そこで本書において著者は、“これからの時代に必要となる戦略とはなにか”を定義し、そのあり方を捉えなおし、そのなかで必要となる「戦略をデザインする力」について解説しているわけです。
序章「なぜ、戦略をデザインするのか?」のなかから、興味深いトピックを抜き出してみたいと思います。
これからの戦略とはなにか?
戦略とは本来、本質としては動的なもの。つまり、“動きや変化がある”ということです。経営者はそんななか、変化する外部環境からさまざまなインプットを受け取りつつ、自社にとっての影響について考え、つねに戦略を練りなおし続けているのです。
たとえば、「過疎化が進む〇〇県〇〇町に軽自動車を100台販売する」という戦略も、「競合の自動車メーカーが〇〇町に販売店を開業する」といったニュースが入れば、すぐに見なおさなければならなくなるわけです。
モノづくりやコトづくりが中心だった時代であれば、頻繁に戦略を更新する必要はなかったかもしれません。世の中の変化のスピードが比較的緩やかだったため、3年間の中期経営計画でも、問題なく対応できていたのです。そればかりか、求められる外部環境や内部環境分析の解像度も、現代とは比較にならないほど大まかで済んでいました。
しかし、だからといって、解像度が高まった現代で、個々のユーザーごとに戦略を細分化し、「過疎化が進む〇〇県〇〇町のAさんにオンデマンドバスを提供する」というような一対一の対応を積み重ねることが戦略になるわけではないでしょう。(29ページより)
コープさっぽろが実施する場づくりの時代の戦略
では、現代における戦略とはなんなのでしょうか?
それはズバリ「環境に応じて柔軟に『視点』を変え、『価値』を再定義し、『仕組み』を進化させる動的な営み」です。(30ページより)
その例に挙げられているのが、1998年に多額の債務を抱えて経営危機に陥ったコープさっぽろ。当時は厳しい再建の道を歩み始めたわけですが、2007年に理事長に就任した大見英明氏のリーダーシップのもとで経営の立てなおしに成功したのでした。
再建にあたって大見氏はまず不採算店の閉鎖に踏み切り、人員整理を断行。同時に、家電・家具・旅行・ホテル経営などの非中核事業からも撤退しました。また、業績に応じて人を評価する「能力主義人事制度」を導入。優秀であればパート職員でも店長に昇格できる仕組みをつくるなど、組織体制を整えたのです。
かくして危機を乗り越えることに成功したわけですが、特筆すべきは、その後も地域コミュニティを支えるためのさまざまな施策に取り組んでいる点。
たとえば、店舗網と移動販売車「おまかせ便カケル」を活用した“買い物難民対策”は、移動の足がない家庭の生活を支える重要なサービスとなったそう。またそれだけでなく、販売員と利用者、さらには利用者同士が交流できる場としても機能しているようです。
また、健康診断の受診率を向上させるため、店舗や宅配センター、集会場などに検診車を巡回させたことも見逃すべきでないポイント。過疎化が進む地域が増える道内でも、職員や組合員がより身近に検診を受けられるようにしているわけです。
そればかりか、検診で所見が見つかった場合の受診者の受け入れ、巡回検診における医師・医療スタッフの派遣などを通じ、地域医療機関との連携強化にも注力しているのだといいます。
そして、生徒数が少ないため給食センターを設けられない町の学校に給食を届ける事業も開始。家庭の負担軽減と、子どもの健康促進にも寄与しているのです。
さらには、北海道産の電力を提供する「トドック電力」や、「大雪山国立公園湧き出る天然の水」の宅配など、地産地消型のサービスも幅広く展開しているそう。
このように、コープさっぽろの取り組みは、単なる製品やサービスの提供を超えて、人と人、人と技術、人と制度をつなぎ、新たな価値が生まれる“場”を継続的に育てていく戦略の実践例と言えるでしょう。(31ページより)
ここからもわかるように、モノづくりやコトづくりが重視された時代を経て、2010年代以降は「場づくり」の時代になっているのです。
そして上記のエピソードからもわかるように、場づくりの時代における戦略とは「多様な主体や資源が結びつき、価値が共創される構造を設計し、それを持続的に拡張していく営み」だということです。(30ページより)
本書を読み進めながら実践を重ねていくことで、現代を生き抜くための“型”を身につけることができるはずだと著者は述べています。時代を切り拓いていくためのヒントをつかむために、参考にしてみてはいかがでしょうか。
著者紹介:印南敦史
作家、書評家、音楽評論家。1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X
Source: ダイヤモンド社


























