<書評>『税の日本史』諸富徹 著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

税の日本史

『税の日本史』

著者
諸富 徹 [著]
出版社
祥伝社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784396117221
発売日
2025/11/05
価格
1,100円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『税の日本史』諸富徹 著

[レビュアー] 澤井繁男(作家)

◆実りを差配する政治力

 本文中の小見出しを採用した目次を眺めると、日本史を「税」の視点から、古代・中世・近世・近代・戦前・戦後…と通覧できる。第1章で藤原氏が、外戚でない後三条天皇の政策で、寄生的政治権力が没落していく様など、一族の権勢の核が政治力でなく税的基盤(荘園=私有地)だった事実が明かされる。鎌倉時代で武家社会となるが、税制基盤は古代と変わらず、後期になり商工業や流通が発達してもそれを活(い)かせたのは、直轄地の少ない室町幕府だった。

 結局、産業構造転換を見抜き、その益を税として取り込める為政者の出現が望まれる。秀吉、吉宗、意次が成功を収めたが一時的に終わった。西欧では、12世紀の地中海交易の富の蓄積が13世紀商業革命、ルネサンス文化を生む。だが、農業に依存する日本では、商人の自由な活動が妨げられた。税とは、農業にせよ商工業にせよ、時代が変わるにせよ、収益に応じた果実で、その実りを差配するのが政治家の力量だ。

 明治になって従来の封建的貢納から近代的租税国家へと変貌を遂げ、納税の可否が国民の判断に委ねられ、「私」的所有権と「公」的市場経済が認可される。日清・日露と戦争が勃発、軍事費が税で賄われ民衆生活を圧迫する。

 日本の西欧文化受容の特徴は日本的文脈に置き換えて加工することだ。憲法も所得税導入もそれに準じた。国内市場の狭い戦前の格差社会で、陸軍が欺瞞(ぎまん)的経済構想を提起、現代税制成立の端緒となった馬場鍈一の税制改革案が巨額の軍事費支出に道を開き、軍国主義の道へ陥った悲劇を、著者は税の配分を凝視して雄弁に説く。

 戦後税制の根本を「シャウプ勧告」に見て、その広範な取り組みの中から5つのポイントに絞って説明し、その有効性を強調する。付録の日本史家磯田道史氏との対談を読めば、歴史から学ぶべき点がいかに多いか、本書の今日的意義の深さが知れよう。巻末の豊富な参考文献も貴重だ。

(祥伝社新書・1100円)

1968年生まれ。京都大公共政策大学院教授・財政学、環境経済学。

◆もう1冊

『無私の日本人』磯田道史著(文春文庫)

中日新聞 東京新聞
2025年11月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク