『地経学とは何か』
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「半導体」「ITとAI」「宇宙」――多視点で経済安全保障を検証する
[レビュアー] 吉崎達彦(エコノミスト)
今となっては不明を恥じるしかないのだが、2022年秋に地経学研究所が発足し、鈴木一人教授が所長に就任したと聞いて、評者は「おいおい、大丈夫かよ」と危ぶんだものである。
そもそも地経学という学問が確立されているわけではない。いや、ニーズがあるのはわかる。ちょうどウクライナ戦争が勃発して、経済制裁の成否が注目されていた時期だ。ゆえに多くの日本企業が地経学研究所の会員となった。しかるにどんなサービスを提供できるのか。民間企業の人間としては、「長続きするのかねえ」と案じたのだ。
それから3年後、新潮選書から刊行された本書を読んで、ひたすら恥じ入っている。今まさに必要とされる「地経学」のアウトラインが、しっかりと描かれているではないか。
そもそも「経済が武器化する時代」とは、いいとこ2010年の中国によるレアアース輸出規制をもって端緒とする。それが今では、経済安全保障が官民の最重要課題となる時代である。この間の変化たるやまことに急激で、しかも政治とビジネスの両面にまたがっている。
おそらく鈴木教授は日々、会員企業から最前線の情報に接していたのだろう。現在進行形の学問たる地経学を研究するにはそれが最善手だったのだ。
本書は「半導体」「ITとAI」「宇宙」「資源」「経済制裁」など、多くの視点から地経学を語っている。半導体やAIの話題は食傷気味という読者も、騙されたと思って読んでみるといい。海底ケーブルの話など、「そうだったのか!」という気づきにきっと出会えるはずだ。
鈴木教授の本来のフィールドである「宇宙」の章はさらに面白い。国家主導のアポロ計画の時代は既に遠く、今やイーロン・マスク氏などによる民間開発の時代である。ロシアが同意しない状況下で、どうすれば国際的な宇宙のルールを作れるのか。
「資源」の章では、「脱炭素、脱ロシア、脱原発の『トリレンマ』」という指摘が興味深い。欧州主導の脱炭素は現在、失速気味である。せっかくEV規制を作っても、中国がEU基準を満たしたより安い製品を輸出してくる。慌ててダンピング調査をしなければならなくなった。さて、「脱炭素」というビジョンに対し、日本はいかに接するべきなのか。
最終章「トランプ時代の地経学」は、目まぐるしく変化する情勢分析にも挑む。地経学はやはり現在進行形の学問なのだ。鈴木教授、今後も「走りながら考える」流儀で、次なる解答を示し続けてくれるに違いない。


























