『カフェーの帰り道』
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大正の世、上野・繁華街外れ。夢二の美人画そっくりな女給の正体は?!
[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)
昨年、デビュー二作目の『襷がけの二人』が直木賞候補となり注目された嶋津輝。期待の新鋭の新作『カフェーの帰り道』は連作短編集。大正から昭和にかけて、小さなカフェーで働いていた個性豊かな女性たちが登場する。
上野の繁華街の外れ、活気のない一角にある「カフェー西行」。店主兼コックの菊田は人のよい初老の男で、彼の大らかさもあってか、この店ではさまざまな事情を持つ女性たちが雇われ、和装にエプロンの姿で働いている。
巻頭の短編「稲子のカフェー」は関東大震災から二年以上が経った頃の話だ。夫が「カフェー西行」のタイ子という女給と親しくしているとの情報を耳にした稲子。一人で食堂にすら入ったことのない彼女だが、気になるあまり、勇気を出して客として店を訪れる。そこで竹久夢二の美人画そっくりなタイ子を見かけ、嫉妬するどころかうっとりしてしまう稲子が可愛らしい。その後、タイ子側の事情が明かされていくのだが、これがなんとも可笑しい(特に、夢二の絵そっくりに見えた理由と、その後のまさかの展開)。
二編目の「嘘つき美登里」は昭和四年の話。女給の美登里には、幼い頃からくだらない嘘をつく癖がある。そんな彼女も、ある日店にやって来た中年女性のあからさまな嘘に驚く。「女給募集 十九歳」の貼り紙を見てやってきた彼女は、自分は十九歳だと断言するのだ。さらに美登里を驚かせたのは、どう見ても年齢詐称なのに、菊田が平然と彼女を雇い入れたこと。だがその後、一緒に働くうちに、美登里とその女性、園子との関係は変化していく。
以降、章が進むごとに時間が流れ、主人公も交代するが、先に登場した女給たちのその後が分かるのも楽しい。全体的にユーモアが漂うが、次第に、苦難の多い時代を生きていた彼女たちの懸命さ、たくましさが胸に迫ってくる。


























