『「何を考えているかわからない…」がなくなる 部下が自ら動きだす「上司の話し方」』
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【毎日書評】パワハラになる人は、「ヒト」を責め、ならない人は「コト」にフォーカスする
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
部下がなにを考えているのかわからない。
そんな悩みを抱える上司は、決して少なくないはず。それは、『部下が自ら動きだす「上司の話し方」』(桐生 稔 著、明日香出版社)の著者も同じだったようです。過去に上司の立場だったころ、部下が半年で辞めてしまったり、会議の参加をボイコットされるなど、“マネジメントの苦難”を体験したというのです。
そして、苦い体験を糧として、10年前にはコミュニケーション力をアップするビジネススクールを立ち上げることに。セミナーや研修を通じ、これまでのべ10万人にビジネストレーニングを提供してきたのだそうです。
そうした経験をしてきたからこそ実感できるのは、「どんな部下でも、ひとたび心に火がともれば目覚ましい成果を出し始める」ということだとか。でも、どうすれば部下の心に火をともすことができるのでしょうか?
それはすべてあなたと部下との関係性にかかっています。
本書の骨子を一言でいうと、まさにこの「関係性のつくり方」です。
まずは「上司」という鎧を脱ぎ捨て、一人の人間として部下に向き合い、部下と最高の関係性を築くことを本の中核に据えています。(「はじめに」より)
つまり本書は、「部下との関係性」を重視した構成になっているわけです。具体的には、「そもそも関係性とはなにか」からはじまり、「どうやって部下の意見を引き出すか」「どうしたら部下が自発的に行動したくなるか」などに関する、具体的なメソッドを展開しているのです。
また、部下の育成を通じ、上司もブレイクスルーできるようにもプログラミングされているのだそうです。きょうは第2章「部下が思わず耳を傾けたくなる『説明』」に注目してみましょう。
パワハラになる人とならない人の違い
現代社会においては「ハラスメント」がしばしば問題視されますが、説明に関していえば、「パワハラになる人の説明」と「パワハラにならない人の説明」はなにが違うのでしょうか?
著者によれば、両者には説明の仕方について明確な違いがあるよう。まず、「ヒト」にフォーカスするとパワハラになりやすいのだそうです。
たとえば、仕事の遅れが多い部下に対する「また遅延!物覚えが悪いんじゃないか?」という発言は、「ヒト」にフォーカスしています。「物覚えが悪い」と、その人の能力に言及しているからです。
なにかを質問された部下が即答できなかったとき、「なんでそんなことも答えられないの? 頭の回転が遅くない?」と文句を言うことも「ヒト」にフォーカスした反応。「頭の回転が悪い」と、その人の知能に言及しているわけです。
こんなところからもわかるように、「ヒト」にフォーカスしたことばを繰り返すと、部下の人格を侵害し、部下のメンタル崩壊にもつながる可能性があるのです。つまり「ヒト」にフォーカスするとパワハラになりやすいのは、適切な業務の範囲を超えてしまっているから。
では、「コト」にフォーカスするとどうなるでしょう?
この点については、上記の「ヒト」の指摘を「コト」に置き換えてみるとわかりやすいようです。ちなみに「コト」とは、事実・出来事・対策・業務の進め方を指すもの。
「また遅延! 物覚えが悪いんじゃないか?」
↓
「今月、2件納期が遅れているね」
「頭の回転が遅くない?」
↓
「答えられない事案は『わかりません』と言ってね」
(84ページより)
ときには、パワハラが原因で命を絶つ人もいます。そうした事態に直面したとき、「そんなつもりはなかった」と口にしたところでなにも解決しません。取り返しのつかない事態を避けるためにも、「ヒトと対決する」のではなく、「コトを解決する」ことに意識を注ぐべきなのです。(80ページより)
最初に筋を通しておくと指摘が楽になる
部下を指導する際、「厳しいことを言って問題にならないか」「人手不足なのに辞められても困るし」などと不安が邪魔をすることもあるはず。しかしその一方、部下サイドからは「ちゃんと指導してほしい」という声が聞かれることも少なくありません。
では、どう折り合いをつければいいのでしょうか?
この点について著者が推奨するのは、「最初に筋を通しておく」こと。「私は〇〇を大事にしている」ということを、あらかじめ伝えておくことが大切だというのです。
例えば、
・「私は、チームワークを何より大切にしている」
・「私は、仕事の制度には妥協しない」
・「私は、遅刻や欠勤には厳しく注意する」
このように伝えておく行為を「最初に筋を通しておく」と言います。
あらかじめ知っていれば、指摘された方も理解が早く、納得しやすいです。
(88ページより)
部下に説明したとき「伝わっていないな」と感じるとしたら、“説明する前に、まず自分を説明できていない”からなのかもしれないということです。
人は認知できないもの、得体の知れないものとはコミュニケーションが取りづらいです。
だからこそ、
「私は〇〇を大切にしている。なぜなら〇〇だから」
この〇〇を明文化して、あなたのアイデンティティを部下に伝えてみてください。(84ページより)
そうすれば、なにかを伝える際の“伝わる速度”が驚くほど改善されるそうです。(86ページより)
人の心を動かすために大切なのは、「なにを言うか」ではなく「相手とどんな関係性にあるか」だと著者は断言しています。本書を通じ、そんな関係性の構築を目指してみてはいかがでしょうか。
著者紹介:印南敦史
作家、書評家、音楽評論家。1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X
Source: 明日香出版社


























