『詳伝 小杉放菴』
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<書評>『詳伝 小杉放菴 近代日本を生きた画家とその交流』川村伸秀 著
[レビュアー] 南陀楼綾繁(ライター/編集者)
◆ジャンル超え筆振るった才人
東京都北区田端は芥川龍之介が昭和2(1927)年に亡くなるまで住んだ町だ。区は2027年度をめどに、旧居跡地の一部に「(仮称)芥川龍之介記念館」を開設する予定である。明治末から昭和初期にかけて作家や芸術家が住んだことで「田端文士村」と呼ばれるこの地に、芥川よりも先に住んだのが画家の小杉放菴(未醒)だった。
小杉の旧居跡は現在「田端区民センター」となっており、近所に住む評者は説明板にある小杉について知りたいと思っていた。その願いは、小杉の人生を余すことなく追った本書で果たされた。
日光に生まれた小杉は、日露戦争の従軍画家を経て、まず漫画家として注目された。その後、美術雑誌「方寸」に参加。洋画家として夏目漱石らに高く評価される。欧州留学後は、南画にも取り組み、横山大観ら日本画家に影響を与える。晩年には壁画に意欲を燃やし、東大安田講堂の壁画を手がけた。
画家としての小杉を著者は、「頭のなかで想像されたものをいかにリアルに筆先に乗せるか」という感性に優れていたと評する。その志向が、のちに神話や伝説をテーマにした作品を描かせた。
著者によれば、小杉は随筆や短歌も上手(うま)かった。また、テニスが好きで田端にテニスコートを造った。ひとつのジャンルにとどまらない、多彩な才能を発揮したのだ。
作家の国木田独歩、俳人の沼波瓊音(ぬなみけいおん)、冒険小説作家の押川春浪(しゅんろう)ら、画家以外にも友人が多かった。索引には、近代日本を彩った多くの名前が見つかる。
82年の生涯で小杉は自由に筆を振るい、我が道を突き進んだ。その生き方は爽やかだ。死の床では、半ばうつつで「今描いているところだ」と言ったという。
小杉については、文化人類学者の山口昌男やSF作家の横田順彌(じゅんや)らが早くから注目していた。編集者として彼らに接した著者は、本書で小杉の全貌に取り組んだ。多くの先行研究に敬意を払いつつ、ここは違うと思う点は仮借なく批判する姿勢をすがすがしく感じた。
(筑摩選書・2750円)
1953年生まれ。文筆家・編集者。著書『坪井正五郎』など。
◆もう1冊
『田端文士村』近藤富枝著(中公文庫)


























