『セツと八雲』
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【聞きたい。】小泉凡さん 『セツと八雲』
[レビュアー] 斎藤浩(産経新聞社)
■「良きママさん」だった曽祖母
昔話から物語を創作する再話文学で『怪談』などの名作を残した明治時代の作家、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と妻、セツの曽孫で八雲研究の第一人者。館長を務める松江市の小泉八雲記念館の来館者らからは「横顔が八雲に似ているといわれます」。異人と結ばれた曽祖母を「当時の出雲の女性としてはかなりぶっ飛んでいたのでは。肝が据わった人」と推測する。
セツは八雲と助詞(てにをは)を抜き、動詞や形容詞の活用もなし、語順は英語式という独特の言葉で対話、八雲の創作では語り部を務めた。「リテラリー・アシスタント(文学面の助手)としてネタ本を探し、八雲が興味を引きそうな話を選んで自分の頭に入れておいた。推敲(すいこう)にもかかわった」という功労者だ。
貧しい没落士族の娘だったセツは11歳で機織りの仕事に出た。そのため「私に学問があれば、もっとお役に立てたでしょうに」と引け目を感じていた。八雲は「誰のおかげで生まれましたの本ですか? 学問ある女ならば幽霊の話、お化けの話、前世の話、みな馬鹿(ばか)らしいものといって嘲笑(わら)うでしょう」(本書より)といたわり、長男で自分の祖父にあたる一雄には「この本みなあなたの良きママさんのおかげで生まれましたの本です。なんぼうよきママさん。世界で一番良きママさんです」(同)と教えた。
セツも八雲も「明日を信じる向日性」で苦難を乗り越えてきた人物。物語好き、最初の結婚に失敗、極貧体験という3つの共通点が「2人を深い絆で結び付けた」とみる。
「純喫茶みたい」と思っていた凡という名前は連合国軍最高司令官、マッカーサーの側近で小泉家とも親交があったフェラーズの名、ボナーが由来。八雲の全作品を読み「日本人の祖先崇拝と天皇崇拝は不可分の関係にある」との日本文化への理解や天皇観に共感したフェラーズがマッカーサーに助言し天皇の戦争責任は回避されたとされる。
「セツにかわいがられた私の父、時(とき)にもっと曽祖母の話を聞いておけばよかった」との後悔がある。「『先祖の七光り』といわれるのがずっと嫌で、大人になるまで八雲もセツも遠ざけていたから」と振り返った。(朝日新書・957円)
斎藤浩
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【プロフィル】小泉凡
こいずみ・ぼん 民俗学者。昭和36年、東京都生まれ。成城大大学院修了。小泉セツが主人公のモデルとなったNHK連続テレビ小説『ばけばけ』に資料提供する。


























