「講談社で単行本にならなかった新人」の新作が今月の一等!
[レビュアー] 栗原裕一郎(文芸評論家)

『新潮2025年12月号』
一人出版社から刊行された小説が今年の三島由紀夫賞候補に選ばれ話題になった。畠山丑雄の『改元』がその候補作で、版元は石原書房。2023年に設立されたばかりの若い出版社だ。
表題作「改元」の初出は講談社の『群像』。同社で単行本化されなかったことを疑問に思う読者もいるだろうが、純文学の新人の作品はなかなか本にならないのが昨今の出版事情である。
その「改元」の連作とも見なしうる畠山の新作が『新潮』12月号に発表された。タイトルは「叫び」。「叫び」は「改元」においても重要な役割を担っていたモチーフである。
主人公は、茨木市役所に勤める37歳の地方公務員・早野ひかる。同棲予定で茨木に越してきたが相手の女に逃げられ飲み歩くうちに金が尽き、独り身を持て余して安威川沿いを歩いていた夜、鐘のような音に導かれて畑に空いた穴に潜り込み「先生」と出会う。鐘の音は先生のつくった銅鐸の音だった。
生活保護で暮らす謎に満ちた五十男の先生に魅入られた早野は、銅鐸づくりを習い、この土地の歴史を勉強するよう言いつけられる。
早野は、安威川沿いがかつて東洋一の罌粟産地であり、満州と繋がっていたことを知る。満州でも、天皇裁可の熱河作戦の一環で罌粟畑づくりが推進された。罌粟栽培に才能と情熱を持つ農民・二反長音蔵(にたんちょうおとぞう)が指揮を執り、川又幹朗という青年が片腕に抜擢された。
陛下のためにと罌粟づくりに身を捧げた川又青年の来歴に、早野は「自分が今ここにいることの意味が補われていく気が」して、自身を重ね合わせていく。
早野は川又青年に恋にも似た憧れを抱くのだが、その慕情は、土地と空間に閉じ込められた「叫び」を聞いてしまった者が、囚われ確信した「認識」なのだ。
この認識について作者は『改元』刊行記念対談で「加害性の連続」であると述べている。とすると「叫び」とは、時間と空間を超えて現在に繋がる負の記憶ということになるが、消化不良気味で読み取るのが難しい。ヒロインを活かし切れていない恨みも残る。それらを割り引いても、今月は本作が一等だと判断した。




















