『目立った傷や汚れなし』
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【聞きたい。】児玉雨子さん 『目立った傷や汚れなし』
[文] 産経新聞社

児玉雨子さん
■「当たり前」に潜む異常さ
フリーマーケット(フリマ)アプリを利用すると、「目立った傷や汚れなし」という商品の説明が定型文のように使われている。中古品だが状態は未使用品とほぼ変わりないという含意だが、そもそもなぜ私たちは当然のように新品を求めるのだろうか。作詞家でもある著者が消費社会をテーマにした本作であぶりだしたのは、日常の「当たり前」に潜む異常さだ。
「傷があれば排除されるのに、何をもって傷とするのかも実はよくわかっていない。新品ばかりを求めていたら、社会が立ちゆかなくなるのではという思いがあった」
都内の1LDKマンションに住む翠(すい)は、適応障害と診断されて休職中の夫の拓実と2人暮らし。拓実は持ち物を次々と断捨離したかと思えば、ブランド服やホーロー鍋を買いあさる過剰消費の渦中にいる。一方で、家計の足しにしようと拓実のゴミをフリマアプリに出品していた翠は、ディスカウントストアの値引き商品を転売目的で購入するようになり、同じ目的の女性からサークルに誘われる。翠もまた、別の消費の渦に巻き込まれていくのだ。
「高価なものを買うときに『リセールバリューがある』と言い訳しながら、ファストファッション店で賢く買い物をする、その現代人の賢さってなんなんだろうなと。そこに持続可能性がないのは誰でも分かっているのに、『われに返っちゃいけない』という感覚が社会に充満している」
経済的に困窮する女性の物語として書いたわけではなかったが、読者からは「コンビニでおやつを買ってる時点で貧乏じゃねえよ」という予想外の反応もあり、「せどりで小銭稼ぎをするような女性が小説に書かれていなかったんだ」と気づかされたという。
「エンタメ作品でも港区女子や就職氷河期女子といったキャラクター化が進み、中間層が書かれなくなっている。女性の書き手ですら、女性を戯画化してしまう怖さ。女性が女性を消費するようなサイクルにはあらがっていきたい」。これからも「当たり前」に目を光らせていく。(河出書房新社・1870円)
村嶋和樹
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【プロフィル】児玉雨子
こだま・あめこ 作詞家、小説家。平成5年、神奈川県生まれ。アイドルや声優の楽曲に加え、テレビアニメ主題歌などにも歌詞を提供。令和3年に小説『誰にも奪われたくない/凸撃』を刊行。5年に「##NAME##」で芥川賞候補となる。


























