『ロッコク・キッチン』
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<書評>『ロッコク・キッチン』川内有緒 著
[レビュアー] 平松洋子(エッセイスト)
◆食べて途絶を編み直す
「被災地」「原発事故」の四角い言葉から抜け落ちているのは、土地で暮らす人々の血の通う言葉や息遣いだ。本書は、そのリアルな手触りを独自の方法でつかみ取る。
「ロッコク」とは国道6号線。東京・日本橋から千葉、茨城、福島を経由、宮城県仙台へ至る約360キロの幹線道路を指す。東日本大震災と福島第1原発事故後、全域に避難指示が出されたロッコク沿いの町では、多くの住民が日本中に散り散りになった。現在も、浪江町、双葉町、大熊町には帰還困難区域が残っている。去った人、戻った人、新しく住み始めた人、それぞれの事情や思いを宿す土地に通いながら、著者は考える─「みんな、なに食べて、どう生きてるんだろ?」。
まず、ロッコク沿いの住人に「食」をテーマにしたエッセイを公募し、寄せられた文章を手掛かりに会いに行き、手料理をご馳走(ちそう)になり、話を聞き、写真を撮影し、映画も撮る…てんこもりの企画を、著者を含め5人のスタッフが進めていく。40年ぶりに双葉町に戻ったウメコさんの「いのはなご飯」。浪江町に住むインド出身スワスティカさんの温かいチャイ。古民家を守る渡辺さんの具だくさんの味噌(みそ)汁。中国出身の大竹さんの中華丼。「うまああい!」と味わう姿が人々の語りを引き出し、個人と個人を繫(つな)いでゆく。
「30年は人が帰れない」と言われた土地には、さまざまな断絶がもたらされた。地理の断絶。人間関係の断絶。記憶の断絶。しかし、途絶を編み直すのも「食べる」「生きる」行為なのだ。その確かさを、著者はロッコク沿いを旅しながら再認識する。
昼間は原発作業員、夜は凍える屋外で小さな本屋を営む武内さんと食べるのは温かなクラムチャウダー。彼は言う。「キラキラした場所に行けば行くほど、自分自身が輝いてることが見えなくなる」。むやみに光やエネルギーを求め続けた末に現れたのが、ロッコク沿いの暗闇だったという現実。何度も通い、食べ、聞き、記録しなければ理解し得なかったことが一行一行の後ろ盾となって強い。
(講談社・2090円)
1972年生まれ。ノンフィクション作家。『空をゆく巨人』など。
◆もう1冊
『パリでメシを食う。』川内有緒著(幻冬舎文庫)


























