『カフェーの帰り道』
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【聞きたい。】嶋津輝さん 「カフェーの帰り道」 今が成長期 小説に身をささげる
[文] 産経新聞社

嶋津輝さん
どこか懐かしく、心にしみて、いつまでも読んでいたいと思わせる。そんな物語は、関東大震災の2年後から始まる。東京・上野の寂れた一角にある「カフェー西行」では人のよさそうな初老のマスター、菊田の下で個性豊かな女給たちが働いている。
夫を亡くし、一人息子と暮らすタイ子は、生来の美貌に竹久夢二の絵のような化粧で注目される。嘘つきだが面倒見のいい美登里は、新人の華族で19歳と称する中年の園子に興味を持つ。高等女学校出身で小説家修業のため女給になったセイは文学をあきらめ、店を辞めるが…。
大正から昭和前期、戦後まで、激動の時代に西行で働いた女性たちの交錯する人生を描いた連作短編。
「市井の、きらびやかではないところで生きる人を描きたい。女給をテーマにしたのは編集者の提案で、私は銀座などの大きいカフェーではなく、場末のさえない店で働く人たちに興味がわきました」
参考文献にも恵まれ、女給たちをめぐる悲喜こもごものドラマなど「百年前のわたしたちの物語」に仕上がった。
同じ時代設定の長編『襷(たすき)がけの二人』で直木賞候補になり、決選投票まで進んでから2年。「候補の経験は自信にもなりましたが、まだ無事に書き終え、編集者にOKをもらうことしか頭にない」としつつ、手応えも感じている。
本作でも、文芸誌掲載から単行本にする過程でかなりの直しを入れ、「心が折れかけながら、踏ん張ってすべて満足がいくように直せた。人物の言葉を少し変えるだけでリアリティーを帯びてくるなど、細部によって全体が支えられていると感じられた」。
そんな自身について、「今が成長期かなと勝手に思っています。40歳すぎて小説を書き始めましたが、人生経験がなければ何も書けなかったのでベストのタイミング。書く人としては、まだ青春期で楽しい」と明かす。
昨年春、勤めをやめて作家専業となり、「完全に小説に身をささげることができるようになった」。専念後初、単著では3冊目の本作で2度目の直木賞候補になっている。(東京創元社・1870円)
三保谷浩輝
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【プロフィル】嶋津輝
しまづ・てる 小説家。昭和44年、東京都生まれ。平成28年、「姉といもうと」でオール読物新人賞受賞。同作を含む短編集『スナック墓場』で令和元年に単行本デビュー。アンソロジー収録の作品なども多数。


























