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杉江松恋「私が選んだBEST5」新年おすすめ本ガイド
[レビュアー] 杉江松恋(書評家)
新作『カフェーの帰り道』が第百七十四回直木賞候補作になった。昭和前期を舞台とする、以前に同賞候補になった『襷がけの二人』と同系列の作品だが、驚くほど面白い。
五篇から成る連作集だ。上野の流行らないカフェーに勤める女性たちが主役で、各話ごとに少しずつ時計の針が進む年代記の体裁である。上手いのは、女性の社会進出、男性中心主義とルッキズムといった現代的な主題を当時の状況に溶かし込んでいる点で、読むと登場人物たちにたまらない親近感を覚える。過去の話であると同時に現代を生きる私たちの物語なのである。
二〇二五年に最も驚かされたのは芥川賞作家である砂川文次が新作『ブレイクダウン』で大薮春彦の正統に連なるとしか言いようのない犯罪小説を書いたことである。
作者の出身と同じ自衛官の二人が、身内の者が不可解な死を遂げた事件を調べることから話は始まる。二人の死者は大きな陰謀の犠牲になっていたことがやがて判明するのだが、そのことで主人公たちは巨大な体制そのものと闘わざるを得なくなる。中盤で国家による犯罪という巨大な主題が姿を現わすと、後は一気呵成で、微小な存在の二人が死力を尽くして闘う姿に快哉を叫びたくなる。
二〇二五年は戦後八十年の節目で、先の戦争を扱った作品が多く刊行されたが、最も感心したのが新野剛志『粒と棘』だった。戦争によって運命を狂わされた民間人の悲劇を描いた連作短篇集である。
たとえば「少年の街」では、家族を亡くして天涯孤独になった戦災浮浪児たちが描かれる。主人公の満作は、労働力が不足した地方に少年たちを養子斡旋する仕事を生業にしている。この稼業が思わぬ悲劇を生むのである。戦争によって心を傷つけられた青年や、占領による極端な価値観の変化に惑う者など、登場人物たちはみな国の犠牲者だ。その姿を目に焼き付けたい。
私の、年間を通じての最高傑作は、マリアーナ・エンリケス『秘儀』だった。長大な物語で、六章で話の風景ががらりと変わる展開の意外さがある。
幼い息子を連れた父親が旅に出る場面から話は始まる。なぜか終末感が漂っており、二人の行く手に待ち受けるのはおそらく地獄だろう、と読者に予感させるのである。ホラーに分類される作品だが、後半に入ると描かれた異常な事態が舞台であるアルゼンチンの歴史と密接に結びついていることがわかってくる。物語の虚構が現実の裏返しになっているのだ。なんという雄大な構想だろうか。
小説以外にも一冊挙げたい。V林田『鉄道書の本棚』は、題名通り鉄道に関する本だけを対象にした書評集であり、すべてを語り尽くそうという意欲に溢れている。鉄道開通にまつわる考察や国鉄という巨大組織の分析など社会学的側面に着目した本から、蒸気動車という耳慣れない車両を紹介するものなど、どこまでもどこまでも言及は広がっていく。
もちろん柔らかい話題も扱っているのだが、身近な題材である駅売りの飲食物についても、弁当ではなく土瓶に入ったお茶に着目するというひねりようである。同じ書評家として羨望を覚える。V林田にやられた。

























