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佐久間文子「私が選んだBEST5」新年おすすめ本ガイド
[レビュアー] 佐久間文子(文芸ジャーナリスト)
『天使も踏むを畏れるところ』は、敗戦から十五年後に始まった新宮殿、つまり現在の皇居の建設事業という国家プロジェクトを、ダイナミックに描く。
敗戦をへて国家の象徴となった皇室にはどんな宮殿がふさわしいか。象徴の象徴たる建造物をめぐって、立場を背負った人間の思いがぶつかり合う。
史実に沿いつつ、各人の思いが詳細に描かれ、無機的と思っていた皇居が、読後はそうした思いを乗せたものとして目に映る。
『おにたろかっぱ』は、四十八歳の父ちゃんと三歳の息子タロが旅をするロードノベル。ミュージシャンの父ちゃんが再起をかけたどさ回りの旅に、思いがけずタロを連れて行くことになる。幼児連れのどさ回りは予想通りアクシデントが続くが、タロの反応がいちいち面白く、一緒に旅をしている気持ちになる。
日々成長するタロと違って、中年期に入った父ちゃんはこの先に明るい未来を思い描けない。それでもこの父ちゃんは、一日一日を楽しく過ごすすべを知っている。下り坂をどうくだるかを考えてしまうとき、彼のメンタルを見習いたい。
『をとめよ素晴らしき人生を得よ』は、「女人短歌会」と歌誌「女人短歌」を舞台に、女性歌人たちの闘いとシスターフッドを描く。
歴史をどう描くか、書き手がこれまでさんざん悩み考えてきたところだと思う。歌人で批評家でもある著者は、「女人短歌」における二人ずつの特別な組み合わせを見出し、同時代の表現者と相対したことで、どのような表現が可能になったかを描いていく。
一本の線で歴史を描こうとするときとは異なる時間の流れになり、こういう歴史の描き方があるのか、と非常に刺激を受けた。
『富岡多惠子の革命』は二〇二三年に亡くなった作家の本格評伝。詩から小説、評論・評伝と、同じ場所にとどまらず更新され続けたその創作活動を著者は「革命」と呼ぶ。
パートナーであった池田満寿夫、菅木志雄だけでなく、富岡の的確な言葉が同時代の表現者に与えた影響の大きさも再認識させられた。
晩年は、編集者にも告げずにひっそり筆を絶っていたという。書くことの意味を考えさせられる一冊。
三〇年以上、永井荷風を追い続けてきた著者の集大成となるのが『荷風の昭和』。関東大震災から最期の日まで、荷風の日記や作品だけでなく、同時代の小説や映画も参照しながらふくらみを持って描かれる。
荷風と言えば「狷介孤高の文人」で、その孤独死に焦点を当てて語られることが多いが、フランス語の弟子や、家事手伝いの女性とのつきあいから、親しい人に大切に思われた晩年の荷風の姿が浮かび上がる。

























