『最後の一色』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
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[本の森 歴史・時代]和田竜『最後の一色』
[レビュアー] 田口幹人(書店人)
本屋大賞受賞作『村上海賊の娘』刊行から12年! あの興奮から12年もの歳月が流れていたのかとしみじみしつつ、待ちに待った和田竜の最新刊『最後の一色』(小学館)を手に取った。読み始めてすぐ「親子そろって出生に異説があるというのも珍しい。/細川藤孝(のちの幽斎)、忠興父子のことである。」という冒頭のたった二行で、作品世界に引き摺り込まれていた。
その後、細川藤孝以降四代の事績が収められた肥後熊本藩主・細川家の家記『綿考輯録』の引用があり、続けて著者の考察が入るという構成で物語が進んでいく。
歴史上の人物が、著者の洞察力と表現力によって、創作とは思えないほど活き活きと描かれているのが本書の醍醐味であり、歴史は終わってから意味を付与する営みであることを再認識した。また、歴史を小説に仕立て上げるまでの道のりや舞台裏を垣間見ることができるという、なんとも贅沢な作品でもある。
本書には、戦国時代の混乱を経て、織田信長による天下統一の前夜、颯爽と戦場に現れた丹後の守護大名・一色義員の嫡男・五郎と、信長の命を受け、丹後統一を図る長岡(細川)藤孝・忠興親子との熾烈な戦いが描かれている。
加佐、与謝、丹波、竹野、熊野の五郡から成る丹後国のうち、加佐と与謝を長岡家が、残る奥三郡を一色家が分割統治するが、それ以降も、両家の間には依然しこりが残り続けた。それは、一色家と長岡家だけではなく、丹後の国人たちを巻き込んだ争いでもあった。
中でも、同年代の五郎と忠興の二人の関係の機微を主軸として物語が進んでいく。相手を打ち負かしたいという競争心と同時に、相手の実力に対する深い嫉妬と尊敬の念を互いに抱き葛藤する五郎と忠興。しかし、荒々しい戦国乱世は二人に決断を迫る。五郎と忠興という二人の若き当主の熱を描き切ることで、数々の修羅場をくぐり抜けてきた経験がある藤孝や家臣の米田求政という歴戦の武者の深い思慮が浮かび上がり、ワクワクが止まらない展開となっていく。五郎と忠興の関係の行方と一色家と長岡家の戦いの結末は読んで確かめていただきたい。
他にも、ご紹介したい読みどころがあり過ぎるのだが、字数の関係でもう一人だけ触れておきたい。丹後守護一色氏最後の城である弓木城が重要な拠点として度々登場する。その城主である稲富伊賀の存在である。乱世において他の武人とは違う生き抜き方をした稲富伊賀は、五郎と忠興の物語の中で、静と動、熱と冷、そして弱さと強かさの対比構造に深みを与える存在として強く印象に残っている。
2025年の締めに、今年を代表するエンタメ歴史小説に出合えたことに感謝したい。全七百頁超えの上下巻。年末年始にじっくりとお読みいただきたい。



























