手話を通じて惹かれ合った日本在住40年のベルギー人男性と岐阜市在住の看護師の恋の行方

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だから夜は明るい

『だから夜は明るい』

著者
君嶋 彼方 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103564911
発売日
2025/10/30
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

君の手が語ること

『君の手が語ること』

著者
デビット・ゾペティ [著]
出版社
田畑書店
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784803804775
発売日
2025/10/17
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

[本の森 恋愛・青春]君嶋彼方『だから夜は明るい』/デビット・ゾペティ『君の手が語ること』

[レビュアー] 高頭佐和子(書店員。本屋大賞実行委員)

 君嶋彼方氏『だから夜は明るい』(新潮社)は、同性の恋人同士であるふたりと、彼らの周囲の人々の揺れる心を描いた恋愛小説だ。著者が紡いでいく言葉には、読者をはっとさせる純粋なきらめきのようなものがある。それを一つずつ見つけながら、登場人物たちと対話をするように読んだ。

 二十七歳の柏木文也と三十三歳の西澤祥太は、付き合い始めて三年とちょっとになる恋人同士だ。文也行きつけのゲイバーに、祥太が会社の同僚たちとやって来たことが出会いのきっかけだ。最悪の出会いから徐々に打ち解けて気持ちを確かめ合ったのだが、文也の心には後ろめたさがある。同性愛者の自分が、異性愛者の祥太を日の当たらない場所に引きずり込んでしまったのではないか。ずっと一緒にいたいのに、明るい光の下で自分から祥太の手に触れることが、文也にはできない。

 同性との恋愛であるがゆえの悩みや心のすれ違いが、普遍的な恋の切なさと甘やかさとともに描かれる第一話の後には、ふたりの恋を応援しつつも複雑な心情を抱く祥太の元恋人・美里さんと大学の後輩である宮川くん、息子の恋愛にショックを受けるものの理解したいと願う祥太の父親が語り手として登場する。恋人としてまたは友人や家族として、相手を大切に思うからこそ口にできない気持ちを、著者は丁寧に書いていく。文也たちが通うゲイバーの経営者が印象的だ。長年の恋人の裏切りに傷つき、年齢を重ねるほどに苦い思いとやりきれなさが積み重なっていく日常がリアルで、読んでいると心がヒリヒリと痛む。

 屈託がなく、ちょっと無神経なくらいにおおらかな祥太が魅力的だ。余計な飾りも濁りもないその心が、登場人物たちと読者を自分の内側にある思いに向き合わせてくれるのだ。

 デビット・ゾペティ氏『君の手が語ること』(田畑書店)の主人公は、四十年近く日本に住み、大学で国文学を教えているベルギー人男性である。熱心に手話を学び実力も身につけた主人公は、オンライン講座で知り合った岐阜市在住の看護師・梓に惹かれている。岐阜旅行の観光案内を依頼したところ、彼女は手話だけでコミュニケーションすることを提案してくる。一緒に時間を過ごすうちにふたりは惹かれ合っていくが、梓の振る舞いには小さな違和感があった。主人公は梓を東京で行われるデフリンピックの応援に誘うが……。

 大きな喪失体験を経た者同士のリアリティある大人の恋の行方に、はらはらさせられた。ふたりの手話やメールでのやり取りはもちろんのこと、日本語で小説を書くペルー人・パブロ、ろう者の弁護士・小松といった個性的な登場人物との会話も興味深い。言語とコミュニケーションについて考えさせられ、手話という言語の奥深さへの関心も湧く一冊である。

新潮社 小説新潮
2026年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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