「化け物」「美しい闘神」…江戸時代の最強力士「雷電」は勝率9割超でも「なぜ横綱になれなかった」のか? 謎を見事に解く物語
レビュー
『雷電』
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江戸相撲最強の力士・雷電為右衛門最後の一番に、我知らず拳を握る
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
江戸時代、それは強い力士がいたんだ、天下無双の雷電、生涯大関で横綱にはなれなかったがな、と幼い私に相撲好きの父はよく話してくれた。梶よう子の『雷電』は、その謎を見事に解いてくれたのだ。
当時の相撲は藩の威信を懸けた代理の戦のようなもの。雄藩はお抱え力士を持ち、育成に力を入れ、江戸相撲の番付にも口を出す。力士も足軽の士分となり、藩主に仕える身分。
相撲藩という異名がある雲州松江松平家、江戸留守居役・石積権太夫の元に養子に来た部屋住みの次男坊・多平太の目を通して物語は語られる。
留守居役の仕事――それは土俵の外での戦。抱え力士に目を配り、才のある若者を見つけ、相撲会所、相撲部屋を通しての情報戦に腐心する。
多平太はしかし、幼い頃のあることがトラウマで、相撲も相撲取りも好きではないのだった。
養父について、留守居役の仕事を学び、力士と関わり、相撲の裏と表を知るうちに変わっていく。より知ることでより反発し、その思いのむこうを考える。相撲とは誰のもの。
それもこれも、雷電との出会いが大きい。九割六分二厘の勝率。異能の者。化け物。美しい闘神。相撲の神に寵愛された力士。これまでもこの先も絶対に現れることのない相撲人。その筋肉の美しさ。しかしそれよりも彼の人間性に惹きつけられる。
小さな土俵の中で鍛え上げられた肉体を持つ力士たちがぶつかり合う。立合いの刹那、その衝撃。我知らず拳を握る。相撲を読むとはこのことか。臨場感を味わって頂きたい。
雷電が、唯一、二敗した花頂山との最後の一番。その行方は。文字通り固唾を呑んだ。
雷電の魅力は言わずもがな、見方を変えると、多平太を中心に、相撲が紡いだ親子三代の大河小説とも読める。彼らが繋いでくれたお陰で、令和の今も相撲が楽しめるのだ。而して相撲とは誰のもの。
兎にも角にも、皆んな雷電贔屓。


























