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たかが記号、されど記号……歴史の上で大きな役割を果たした紋章
[レビュアー] 辻田真佐憲(作家・近現代史研究者)
辻田真佐憲さん(近現代史研究者)のポケットに3冊
〈1〉『紋章のヨーロッパ史』浜本隆志著(角川ソフィア文庫、1254円)
〈2〉『アメリカ大統領演説集』古矢旬・三浦俊章編訳(岩波文庫、1430円)
〈3〉『ペルソナ 三島由紀夫伝』猪瀬直樹著(中公文庫、1650円)
たかが記号、されど記号。ひとはときにそれをめぐり争い、命を失う。
〈1〉によれば、中世ヨーロッパにおいて紋章は、王侯貴族の血統や婚姻関係を示すものであり、封建社会と分かちがたく結びついていた。皇帝や国王は紋章の使用許可を通じて権力を行使し、紋章の学校や紋章官という専門職まで存在したという。
やがて近代に入ると、紋章の役割は国旗や軍旗へと引き継がれていく。それに加えて、決定的な影響力をもったのが演説である。印刷物からラジオ、さらにテレビへと主要メディアが移行するたび、ことばの力は飛躍的に増幅された。〈2〉は、ワシントンからオバマまでの歴代アメリカ大統領の演説を集めたアンソロジーだが、その変化を如実に物語る。俳優出身のレーガンがテレビ時代の申し子であったことは象徴的だ。
歴史に残る演説といえば、三島由紀夫の最期に触れないわけにはいかない。三島ほど記号的な生を送った人物も珍しい。若くしての鮮烈なデビュー。人工的と評される文体――。だが〈3〉は、それらを演出として捉え、その背後に祖父・平岡定太郎にはじまる自身の官僚家系への反発を読み取る。稀代(きだい)の作家を内在的に理解するための刺激的な補助線である。
記号の歴史をたどり、その背後でうごめく権力や欲望を知ること。それは一種の解毒剤にはなるだろう。だがそれでも、われわれは今後も記号に翻弄(ほんろう)され続けるにちがいない。=寄稿=























