『世界認識の再構築』
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<書評>『世界認識の再構築 一七世紀オランダからの全体知』寺島実郎 著
[レビュアー] 出口治明(立命館アジア太平洋大学名誉教授・学長特命補佐)
◆相互連関で捉える近代の成立
本書は、「なぜ一七世紀オランダが近代の揺籃(ようらん)期となったのか」という問いを軸に、世界史を立体的に捉え直す試みである。著者は議論を4部構成に分け、西洋史・東洋史・日本史を分断せず、相互連関の中で近代の成立条件を明らかにしていく。
まずⅠ部で「近代の基点としての一七世紀オランダ」が描かれる。宗教改革に端を発する情報革命、すなわち活版印刷は思想と知識の流通を加速させ、海洋国家オランダは当時欧州11カ国分に匹敵する約1万5千隻の船舶を保有するに至った。グロティウス、デカルト、スピノザ、そしてフェルメールやレンブラントに象徴される精神的厚みは、経済力と制度、思想が同時に成熟した社会の産物である。一方、信長の時代、日本で流通していた通貨の大半が中国渡来銭であった事実は、日本がすでに世界経済の一部であったことを静かに物語る。
「Ⅱ 江戸期日本と世界」で、石見銀山から産出された銀が世界の銀の3分の1から4分の1を占め、中国経済を下支えした事実が示される。キリスト教の伝来と禁制、鎖国下における四つ(長崎、薩摩、対馬、松前)の「口」を通じた交易は、閉鎖ではなく選択的接続であった。国学の興隆は、2千年続く中国文明圏からの自立を意味している。
「Ⅲ 欧州のパラダイム・シフト」では名誉革命が取り上げられる。3度の英蘭戦争を戦った敵から王を迎えた英国の選択は、理念が国益を超え得ることを示した。同君連合後のオランダの衰退は、覇権の移ろいを冷徹に教える。Ⅳ部で世界のイスラム人口の過半がアジアに存在する現実を示し、ヘレニズム文明の後継者であるイスラムの世界化という視点を強調する。近代とは西洋の専売特許ではない。
日本の世界GDP比は1994年の17・8%を頂点に、2024年には3・6%まで低下した。衰退局面にある今こそ、歴史と数字から世界を再認識する必要がある。本書はそのための確かな座標軸を与えてくれて読む価値がある。「陽(ひ)はまた昇る」のか。答えは我々の認識にかかっている。
(岩波書店・2970円)
1947年生まれ。三井物産を経て日本総合研究所会長、多摩大学長。
◆もう1冊
『世界を知る力』寺島実郎著(PHP新書)


























