<書評>『ミルトン・フリードマン 生涯と思想(上)(下)』ジェニファー・バーンズ 著

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ミルトン・フリードマン(上)

『ミルトン・フリードマン(上)』

著者
ジェニファー・バーンズ [著]/村井浩紀 [訳]
出版社
日経BP 日本経済新聞出版
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784296120123
発売日
2025/11/26
価格
5,500円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ミルトン・フリードマン(下)

『ミルトン・フリードマン(下)』

著者
ジェニファー・バーンズ [著]/村井浩紀 [訳]
出版社
日経BP 日本経済新聞出版
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784296120130
発売日
2025/11/26
価格
5,500円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『ミルトン・フリードマン 生涯と思想(上)(下)』ジェニファー・バーンズ 著

[レビュアー] 根井雅弘(京都大教授)

◆マネタリズムの盛衰 克明に

 フリードマンは、経済学を学ぶ者にとってはお馴染(なじ)みの名前である。本書は、経済学者というよりは歴史家による詳細な評伝だが、全体を通読して、いくつかの重要な発見があることに気づく。

 第一に、第2次大戦中、物価統制局を中心にインフレ抑制のために物価統制を主張する勢力が強かったが、同じころ財務省で仕事をしていた彼は課税の強化の方がましだと考えていた。だが、彼はウィスコンシン大学での講義でニューディールへの疑問を表明し、ケインジアンとは一線を画していた。

 だが、初期のころは応用統計学者としての仕事が知られており、まだ「貨幣」を重視した経済学者になっていなかった。それゆえ、第二に、アンナ・シュウォーツとの共同研究『合衆国金融史』(1963年)に焦点を当てて、貨幣供給量のコントロールを最重要視するマネタリズムの形成過程を明らかにしている。のちに彼がシュウォーツの博士号取得に尽力したというのはある種の美談である。

 第三に、シカゴ大学教授に迎えられた彼が、学内にあった「コウルズ委員会」(亡命学者たちが中心になっていた数理・計量経済学的研究の拠点)と対立し、ついには同委員会をイェール大学に放逐するのに執念を燃やしたこと。実証経済学の方法論として彼が提示した仮定の「現実性」よりも「予測」を重視した有名な論文は、難解な数理・計量経済モデルを好んだ同委員会への「反撃」だったというのは新しい発見である。

 第4に、彼のアメリカ政府(ニクソンやレーガンの共和党政権)への関与について、書簡を含めた大量の資料を駆使して、マネタリズムが頂点を極めやがて衰退していく過程を明らかにしていること。だが、彼の立場に近い著者は、死後の現代でもその名前が影響力を行使し続けていると結論づけている。

 登場する名前が多すぎて理解を妨げるだろうが、立場の違いを超えて、フリードマンを無視した現代経済思想史は書けない。一度は手に取ってほしい力作である。

(村井浩紀(こうき)訳、日経BP、日本経済新聞出版・各5500円)

歴史学者。スタンフォード大教授、フーバー研究所リサーチフェロー。

◆もう1冊

『資本主義と自由』ミルトン・フリードマン著、村井章子訳(日経BP)

中日新聞 東京新聞
2026年1月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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