「我々は同姓同名で2部屋を予約して…」海外ホテルのフロント係も困惑 ギネス達成→100日未満で破られた「タナカヒロカズ」世界進出記【前編】

エッセイ

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全員タナカヒロカズ

『全員タナカヒロカズ』

著者
田中 宏和 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
総記/総記
ISBN
9784103563815
発売日
2025/07/16
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

[レビュアー] 田中宏和(タナカヒロカズ運動発起人の「ほぼ幹事」)


2022年10月29日にギネス世界記録を達成した「タナカヒロカズ」さん達

 自分と同じ名前の人がいる。その面白さに魅せられたのは、田中宏和さん(57)だ。情報を集めているうちに会って集まるようになり、「タナカヒロカズ運動」の発起人そして“ほぼ幹事”となったという。2022年10月には、アメリカの有名人マーサ・スチュワートがつくった「同姓同名の最大の集まり」の記録164人を破り、ギネス世界記録を達成した。

 この世界記録は98日後に惜しくも破られたが、それが“世界進出”へのきっかけとなったという。実際に世界へ飛び出たタナカヒロカズさん(ほぼ幹事の方)による珍旅行記をお届けしよう。

タナカヒロカズ運動がまさかの海外展開

なぜ同姓同名で集まることになったのか。きっかけは1994年11月18日のプロ野球ドラフト会議で当時の球団、近鉄バファローズの最初の選択希望選手が「田中宏和」。赤の他人だ。しかし私がドラフト1位として指名された、「自分はドラ1」と勘違いしたのだ。その喜びを翌年の年賀状のネタにした。ちょっとしたアイデアと軽はずみな行動力が生み出した、一枚のハガキがすべてのはじまりだった。


同姓同名の野球選手をネタに…1995年の年賀状

この同姓同名発見が一年で終わらず、毎年新たな田中宏和さん情報を紹介する年賀状を出し続けているうち、2003年に初めて「他人の田中宏和さん」、あだ名は[渋谷]さんと対面することになった。[レコード]さんとは、2006年に5番目の田中宏和さんとして初対面して以来の仲間だ。

これまでの活動を本にまとめるにあたり、ヒトの名前の起源については人類学、固有名の謎については言語哲学から深掘りをする中で、コミュニティの規模に関する進化生物学の研究結果を参照したら、見事にタナカヒロカズの会のこれまでの発展ステップが説明できた。ヒトは3人で笑い合う関係から、5人で飲食をともにし絆を深め、十数人で歌や踊りの協働作業をすることで親密さが高まっていく。コミュニティにはスケール化の法則があったのだ。しかし、まさか国際展開することになるとは想像すらしていなかった。

2025年11月、私である田中宏和と別人の田中宏和は、ハンガリーからセルビアに向けレンタカーを運転していた。同姓同名の二人だと自分の名前は機能不全になるので、あだ名が必要になる。私は[ほぼ幹事]の田中宏和と称し、もう一人は[レコード]の田中宏和、「レコードさん」と呼んでいる。ちなみに現時点では漢字も「宏和」に限らず、22種類の「ヒロカズ」による総勢278人のタナカヒロカズの会となっている。

ホテルのチェックインで同姓同名はドギマギする

ハンガリー首都ブダペストからレンタカーを走らせ2時間ほどで到着したのは、人口20万人に満たない南部のセゲドという街だった。

宿泊先ホテルのフロント係の青年に「パスポートを見せて」と言われ、「私は予約したヒロカズ・タナカなのだけど、我々は同姓同名のヒロカズ・タナカで2部屋を予約しています」と答えると、きょとんとしている。この間はまずい。

「我々は同姓同名のツアーをしていて、実は明日、セルビアに行く。なぜなら3年前に178人のヒロカズ・タナカが東京の渋谷に集まり、同姓同名最大の集まりのギネス世界記録を達成できた。しかし、それをBBCニュースで知ったセルビア人が、『うちの国なら簡単だ』と98日後に首都のベオグラードで256人のミリツァ・ヨヴァノビッチさんを集め、記録はあっけなく破られてしまった」

青年は笑い続けている。「このことがきっかけでセルビアとの交流がはじまり、セルビアサイドのイベントのオーガナイザーと国際同姓同名連盟(International Same Name Association/略称ISNA)を立ち上げた。」と、本来なら書籍『全員タナカヒロカズ』を渡して「詳しいストーリーはこれを読んで」と言いたいところだが、今のところ翻訳は無い。ISNAステッカーをプレゼントした。


国際同姓同名連盟(ISNA)ステッカー

フロントの青年は終始、笑っていながらも「面白い。実にクールだ。それは新しい人と人の出会い方だね」と理解してくれた。同姓同名の集まりは簡単な英語で説明しても笑いが取れる、世界に通じるコンテンツなのだ。

結果、このツアーでのホテルのチェックインでは、同じことを繰り返し続けることになり、ありがたいことにフロント係として対応してくれた全員が同様に笑って感心してくれた。

新潮社
2026年1月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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