『全員タナカヒロカズ』
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[レビュアー] 田中宏和(タナカヒロカズ運動発起人の「ほぼ幹事」)

“タナカヒロカズ運動”で中心的役割を果たす[ほぼ幹事]の田中宏和さん
自分と同じ名前の人々を集める面白さに取りつかれた田中宏和さん(57)。夢中で集まっているうちに「同姓同名の最大の集まり」ギネス世界記録を達成するも、セルビア人の同姓同名者によって98日後に破られてしまう。
しかし、この世界記録がセルビアとの出会いを生んだ。思いがけず国際平和活動につながったタナカヒロカズ運動“世界進出記”の後編では、前編のセルビア訪問に続き、隣国ハンガリーに向かう。
ハンガリーの同姓同名同志に会いに行く
今回、私[ほぼ幹事]の田中宏和と[レコード]の田中宏和の二人旅、同姓同名タナカヒロカズ運動のまさかの海外進出、少々大げさ過ぎるタイトル「国際同姓同名連盟(International Same Name Association/略称ISNA)フレンドシップツアー2025」を決行することになった。
きっかけは昨年の3月にハンガリーの名門であるペーチ大学芸術学部の準教授のコヴァーチ・バラージュから受け取ったメールだった。ISNAの活動に刺激を受けて、自分の名前の同姓同名の集まり、コヴァーチ・バラージュ・カンファレンスを11月に行うことにしたと聞けば行くしかない。
招待に喜び遠路はるばる駆けつけた二人のタナカヒロカズを[ドクター]のコヴァーチ・バラージュが満面の笑みで出迎えてくれた。メールで何度もやりとりをし、Zoomで一回話したのみの初対面だが、「アホなことを一生懸命やっている仲間感」がすでに生まれていたから、はじめての握手がうれしい。お酒が飲める居心地の良いハンガリーの定食屋のような場所に案内され、あらためて同姓同名による人のつながりの深さ、将来性について語り合った。
昨年出版した『全員タナカヒロカズ』(新潮社)では、これまでのタナカヒロカズ運動の歴史をたどるだけではなく、東西の知見を参照した。たとえば人類学者クロード・レヴィ=ストロースは、ヒトの名前の起源を考察しているし、戦前の哲学者である九鬼周造による偶然性の研究は、たまたま同じとなった同姓同名現象を掘り下げるヒントになった。人間にとって名前とは何かをその名前のやりとりから深く考え、これからの時代の人間関係のあり方は変わってくるのだ。その中で「同姓同名」を深化させていけば、同様のコミュニティはつくれるはずと思うにいたり、地縁血縁によらない「拡張親族」という考えを提案するようになった。
[ドクター]は、このアイデアに強く共鳴してくれていたのだ。他言語への翻訳が簡単に、そして精度が上がった現在、日本語を英語に変換して気ままに発信していたら同志から連絡をもらえる時代なのである。思いがけずもハンガリーに友達ができるとは。

同姓同名のため[ドクター]と呼び分けたコヴァーチ・バラージュ
ハンガリーで同姓同名ムーブメントが起きた理由
ツアーの初日に訪問した首都ブダペストの在ハンガリー日本大使館の一等書記官は、日本発の同姓同名コミュニティのムーブメントとハンガリーの親和性が高い理由を鋭く指摘してくれた。
ハンガリーでは、生まれた子供の名前を国が定めた名前辞典から選ぶことが義務づけられている。名前はキリスト教の聖人の名に由来することが多く、自分と同名の聖人の祝日(聖名祝日)を自身の誕生日と同じくらい大切にするのだそうだ。聖バラージュの祝日は2月3日で、その名前の日にバラージュさんにワインや花をプレゼントする習慣があり、家族で聖名祝日が近いから12月に一緒に祝うこともよくあるなど、自分たちの名前の日を祝う習慣があるというのだ。
それに加え、ハンガリーはヨーロッパの中では珍しく、アジアのマジャール人をルーツに持つ人が多く、言語はウラル語族で、日本やアジアと同じように姓名の順で名前を呼ぶ。ファミリーネームのあとにキリストネームが続く構成のため、家族を優先する考えが強いのではないかという説を伺った。そのため書記官もハンガリーに来てからは名前をファーストネームにするのではなく、日本と同じ姓名の順にしているとのこと。私も依頼を受けているカンファレンスでのオープニング・スピーチでは、「タナカ・ヒロカズ」と名乗ることに決めた。
さらに書記官は教えてくれた。ハンガリーは建国後ほどなくしてトルコに征服されてから、オーストリアとの二重帝国時代を経て、ナチスドイツ、ソ連の支配を受けてきた。長きにわたり支配下に置かれた歴史があるから平和への思いが強い。対話を通じた平和が、現在のハンガリーの路線であり、それはISNAが目指す平和と近しい。同姓同名運動の世界展開で最初にハンガリーを選んでくれたのはありがたく、ぜひがんばっていただきたい、と背中を押してもらえた。



























