日本の古い言葉に子供が親しむなら江戸時代の絵本・黄表紙が一番 かちかち山を踏まえた作品「親敵討腹鞁」

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江戸の戯作絵本 3

『江戸の戯作絵本 3』

著者
小池 正胤 [編集]/宇田 敏彦 [編集]/中山 右尚 [編集]/棚橋 正博 [編集]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784480512260
発売日
2024/03/11
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

とかく気ながに尋ね給え。たぬきは損気じゃ

[レビュアー] 北村薫(作家)

 名著には、印象的な一節がある。

 そんな一節をテーマにあわせて書評家が紹介する『週刊新潮』の名物連載、「読書会の付箋(ふせん)」。
 
 今回のテーマは「大ぼら」です。選ばれた名著は…?

 ***

 かちかち山の話は、皆さん、ご存じ。それを踏まえて作られたのが、江戸の黄表紙「親敵討腹鞁」(朋誠堂喜三次作、恋川春町画)。『江戸の戯作絵本 3』(小池正胤他編)に収められた表記でいえば、〈むかし/\日かげ山のうさぎ、婆々の敵たぬきを殺せし事、うさぎの大手柄とて世にかくれなし〉と始まります。

 わたしは小さい頃から、家の書棚にあった『黄表紙廿五種』を開いて読みました。面白くて仕方なかった―というと偉そうですが、半分以上は絵を読んでいたのです。黄表紙とは江戸の絵本です。だから、子供でも楽しめた。逆にいうならお勉強としてではなく、理屈抜きで日本の古い言葉に親しむなら、黄表紙から入るのが一番。これを現代語で読んでもつまらない。

 さて、殺されたたぬきの子は、〈猟人を抱きこみ〉敵討ちをしようとする。子供の頃読んだ本には注釈などなかったので、伝わらない部分もあったでしょう。しかし中には、猟人のいう、

〈とかく気ながに尋ね給え。たぬきは損気じゃ〉

 など、子供にも分かる言葉遊びもありました。

 現代の読者もまずは絵を見ながら、注釈を気にせず、ひたすら作者の繰り出す奇想の妙に身をまかせるとよいでしょう。するとやがて、〈たぬきは損気〉以上に見事な言葉遊びが出て来て、〈頭の黒きうさぎ〉という設定に意味のあったことが分かるのです。

 注釈を読むのは、二度目からでいい。これは、一粒で二度おいしい本なのです。

新潮社 週刊新潮
2026年1月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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