『欲望の見つけ方』
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【書方箋 この本、効キマス】欲望の見つけ方 ルーク・バージス 著
[レビュアー] 塚越健司(学習院大学 非常勤講師)
「模倣の欲望」に自覚を
情報社会学を専門とする筆者にとって、「欲望」は重要なワードである。2026年もSNSではさまざまな欲望が溢れている。自己顕示欲や承認欲求ばかりではない。一見すると正当な批判にみせかけて、その実は剥き出しの嫉妬に駆られた攻撃欲求が、行間から垣間見えるものもある。
本書は若くして起業で成功した著者ルーク・バージス(1981年~)が、自身の体験も踏まえながら、フランス出身の文芸批評家ルネ・ジラール(1923~2015)が提唱した「模倣の欲望」について書いたものである。
模倣の欲望とは何か。たとえばあなたが定食屋に入店したとする。メニューが決まらない中、友人が「生姜焼き定食」と言った瞬間、「生姜焼きが食べたかった」と思った経験はないだろうか。この時あなたは、もともと生姜焼きが食べたかったのだろうか。それとも、友人が言ったから食べたくなったのか。あなたの欲望はどこから来たのか。本書はこのように、欲望を「模倣」から考える。
SNSには「模倣の欲望」が溢れている。他人が身に着けた商品が無数に散らばり、TikTokを開けば流行りのダンス動画が量産され、自分もインフルエンサーになりたいと誰かの過激な文章をコピペして投稿したくなる。
一方、模倣に嫌気を感じると、そこから新しいものを求めて競争が生まれる。だが、他人と一緒は嫌だという欲望もまた「模倣」である。人と違っていたいという欲望もまた「人と同じ」というわけである。
このように、現代社会の欲望は「他人の欲望を欲望すること」とも言える。模倣は人を介して全世界に感染する。不安定な国際政治における政治家の領土的野心も、誰かの欲望の模倣ではないのか。
模倣の欲望論を提唱したジラールの影響を強く受けた人物に、IT界の大物、ピーター・ティールがいる。彼はイーロン・マスクとも関係が深く、トランプを2016年の選挙の時点で支援した人物だ。ティールの投資や支援を受けてきたJ・D・ヴァンスは、今や第二期トランプ政権の副大統領である。
ティールは模倣の欲望を深く理解する。模倣が競争と敵意と対立を生み、敗者を量産する。故にティールは常々「競争するな」と主張し、代わりに誰もやらなかった領域で独占的な地位をめざせと論じる。評価の分かれる人物だが、彼のこうした視点は、新興企業の多いアメリカのIT業界で称賛されている。
著者のバージスは模倣を全否定することはない。模倣から距離を取るだけでなく、企業経営においても、模倣のルール設定の必要を説く。いずれにせよ、自らの「模倣の欲望」に自覚的であることが求められる。しかし、SNSを介して伝染する模倣の欲望は、その速度があまりに速い。反応する前に立ち止まること。そのわずかな間を取り戻すことこそが、本書の静かな、しかし切実な提案である。
(ルーク・バージス 著、川添 節子 訳、早川書房 刊、税込2640円)
選者:学習院大学 非常勤講師 塚越 健司(つかごし けんじ)
専門は情報社会学。著書に『ニュースで読み解くネット社会の歩き方』など。テレビ、ラジオの出演多数。


























