<書評>『プレイグラウンド』リチャード・パワーズ 著

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プレイグラウンド

『プレイグラウンド』

著者
リチャード・パワーズ [著]/木原 善彦 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784105058784
発売日
2025/10/30
価格
4,950円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『プレイグラウンド』リチャード・パワーズ 著

[レビュアー] 豊崎由美(書評家・ライター)

◆「海球」の文明問う眼差し

 1947年、父親が開発したアクアラングを背負って、実験プールの底に沈んだ経験をきっかけに、海の中で生きる人生を選択したイーヴリン。彼女が書いた本『ここは海球』を10歳の時に読んで海洋学者を夢みるものの、長じて天才プログラマーになり<プレイグラウンド>というプラットフォームを開発する70年生まれのトッド。そんな彼と知り合い、チェスや囲碁を通して深い友情を培っていく詩を愛してやまないラフィ。イリノイ大学でラフィと出会い、愛し合うようになるタヒチ人の母とアメリカ人の父のもと生まれたイナ。

 ピュリツァー賞受賞作『オーバーストーリー』で森林伐採問題を世に問うたリチャード・パワーズが最新作『プレイグラウンド』で取り上げているのは、海の汚染問題とAIとの共生の可能性だ。

 物語は二つのパートに分かれている。ひとつの主な舞台はフランス領ポリネシアにあるマカテア島。ラフィとイナが2人の子と暮らす、島民が82人しかいないこの島は、海洋都市建設のための遠隔基地にしたいという申し出に揺れている。92歳になったイーヴリンも、最後の本を書くための調査潜水で島に滞在中。このパートは彼女の来し方や、海の中で見てきた驚異的な光景の報告も兼ねている。

 <私>ことトッドが<君>に向けて過去を語るのがもうひとつのパートだ。11歳の時にパソコンを買ってもらい、14歳で複雑なプログラムを書けるようになったこと。進学校で出会ったラフィのこと。ラフィやイナと共に過ごした大学時代のこと。ラフィとの友情が壊れた出来事のこと。

 レビー小体型認知症を患ったトッドが、「すべてを記録しなければ」という思いで語りかけている<君>とは何者なのか。それがわかった時、マカテア島や海洋生物の美しい描写と共に汚染問題に踏み込む前者の物語に、痛切とも哀切ともつかないトーンが重なってくる。その構成が見事な上にも見事だ。作者の文明と人間を見る眼差(まなざ)しは厳しくも温かい。これは“海球”に生きるすべての生物のための小説なのである。

(木原善彦訳、新潮社・4950円)

1957年生まれ。米国の作家。『オルフェオ』『惑う星』など。

◆もう1冊

『モービー・ダック』ドノヴァン・ホーン著、村上光彦・横濱一樹訳(こぶし書房)

中日新聞 東京新聞
2026年1月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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