【解説】シスターフッドの理想形を見る思いがする――『三世代探偵団 春風にめざめて』赤川次郎【文庫巻末解説:門賀美央子】
レビュー
『三世代探偵団 春風にめざめて』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【解説】シスターフッドの理想形を見る思いがする――『三世代探偵団 春風にめざめて』赤川次郎【文庫巻末解説:門賀美央子】
[レビュアー] カドブン
赤川次郎『三世代探偵団 春風にめざめて』(角川文庫)の巻末に収録された「解説」を特別公開!

【解説】シスターフッドの理想形を見る思いがする――『三世代探偵団 春風にめ…
■ 赤川次郎『三世代探偵団 春風にめざめて』文庫巻末解説
解説
門賀美央子(文筆家)
「春風にめざめて」と副題がつけられた「三世代探偵団」シリーズ四作目がいよいよ文庫化された。待ち構えていた読者も多いのではないだろうか。
遠い遠い昔、初めて手に取った赤川作品が角川文庫版『三毛猫ホームズの推理』だったからか、私にとって赤川作品は文庫で読むものと相場が決まっている。多くはないおこづかいでやりくりしなければならなかった中高生時代、ユーモアたっぷりだけれどもどこかほろ苦さもある著者のミステリー・ワールドにたった数百円でひたれるのは最高の幸せだった。
それから数十年経ち、いい大人になった今では単行本も買うにためらいはないが、それでもやはり赤川作品は文庫で読みたい。電車での移動中や病院での診察待ちなど、日常に生まれるちょっとした隙間をたちまち心躍るワクワクとドキドキの時間にしてくれる。それが“赤川文庫”の醍醐味なのだと勝手に決め込んでいる。
そんな“愛すべき一冊”が数多ある中、本シリーズは一作目『三世代探偵団 次の扉に棲む死神』の上梓が二〇一七年なので、赤川ワールドでは比較的新参者といえるだろう。だが、いずれの旧作シリーズに負けず劣らずの存在感をすでに発揮しているように思う。
タイトル通り、事件に挑むのは祖母、母、娘の三世代。とはいえ、別に三人揃ってプロの探偵をしているわけではない。なぜか身近で殺人をはじめとする物騒な出来事が頻発してしまう、典型的な巻き込まれ型素人探偵だ。
そして、三世代探偵団といいながらも、事件解決に直接乗り出すのはだいたい高校生の天本有里だけ。有里の母で平凡な主婦の文乃は無謀な娘が心配でならず、事件とは無関係でいたいと願っているし、天才画家として世に名を知られる祖母・幸代は孫の意志を尊重しつつ的確なサポートをすることで間接的な探偵役を果たす。三位一体の探偵だ。
さて、解説に目を通してから購読を決めるタイプの読者に向け、まずはざっと冒頭部分のあらすじだけ紹介しておきたい。
二作目「枯れた花のワルツ」で、ちょっとした経緯から往年の大スターが主演する映画に関わることになった三世代探偵団だったが、本作はその映画が完成したところから物語が始まる。撮影中に発生した事件を解決したご褒美なのか、主演女優とともにレッドカーペットを歩くという破格の特別待遇でプレミア上映会に参加することになったのだ。
ところが、到着した会場でさっそくトラブルが発生する。レッドカーペットを取り囲む見物客が押し合い圧し合いとなった末に、一人の少女が倒れ込んでしまったのだ。念の為病院に運ばれた少女──矢ノ内香は、怪我こそなかったものの、騒ぎのどさくさで所持していたバッグを失くしてしまったという。しかも、なにやら訳アリの様子。おせっかいの虫がうずいた有里は、入院中の香に代わって失せ物捜しを引き受けた。そして、バディである刑事の村上を引き連れて昨日の会場に入り、首尾よくバッグを発見する。だが、その中から切断された人の指が転げ落ちてきたことで一気に犯罪の気配が立ち込め、有里の“探偵物語”が四度目の始まりを告げるのだ。
プチ猟奇な出来事でスタートを切る今回の事件は、香と、香が頼りに思っていた元教師の宮里の身辺に起こるトラブルを中心に進んでいくのだが、背景として有里たちのような明るい場所で咲いている女性には無縁の世界が描かれている。貧困や無知ゆえに、社会のグレーゾーンからダークゾーンの間で生きていかなくてはならない女性たちの世界が。
赤川作品ではしばしば裏社会の住人が描かれるが、本シリーズは探偵役がお天道様の下を堂々と歩んできたタイプの人たちであるからこそ、そうでない、あるいはそうはできない人たちとの対比が鮮やかだ。思えば第一作からしてすでに殺し屋の女性が登場していたが、本作でも数人、幸せとはいえない境遇の女性たちが登場する。理由はそれぞれだが、ほんのわずかな足がかりさえあれば普通の生活にたどり着けそうなのに、過酷な運命がそれを妨げているのだ。
そんな彼女たちにとって、天本一家は救いの手を差し伸べる女神のような存在、といってよいかもしれない。
少し話が飛ぶようだが、神話の世界にはしばしば三人で一体を成す女神が登場する。
我が国では宗像三女神、ギリシャ神話では人の運命を紡ぐモイライ、北欧神話ではノルンなど、挙げていけばきりがないほどだ。その多くは三姉妹と見なされているが、原型となる三女神の概念は、処女─母─老婆の組み合わせとされていたそうだ。それは同時に破壊─維持─創造も象徴するのだが、この図式、なにやら天本家にそのまま当てはまりそうではないか。
ハイティーンならではの無鉄砲な好奇心で突っ走る有里は、トリックスターめいた行動力で現状を打破する破壊神めいた顔を持つし(破壊は創造の源でもある)、娘の安全と家庭安泰に腐心する文乃は、神話では割に合わない役回りにされがちな母神そのもの、七十歳を超えながら一家を支える幸代は知恵と豊穣の大地母神さながらだ。主役たちの造形自体が神話的といってよいだろう。
だから、彼女たちがたった一年足らずで四度も大事件に巻き込まれても、市井の一高校生が刑事を従えて事件解決に臨んでもおかしくない。さほど冴えた感じでもない中年刑事がなぜか女子高校生にモテモテでもおかしくない……かもしれない(いや、やっぱりここだけは“神話的”なのではなく“男性にとってのファンタジー”なのかな)。
とにかく、有里はこんな風にのたまっている。
母、文乃にうるさく言われるまでもなく、有里だって、好きで危いことに首を突っ込んでいるわけじゃない。(中略)
「──私のせいじゃないわ。そうよ」
たまたま、そういう出来事に出合ってしまうのは、運命というものだろう。
「大丈夫! 私は死なない! 天本幸代の孫だもの!」
そう、有里は三女神の一人である限り絶対無敵である。
自信の根拠となっている幸代は言うまでもなく無敵である。
毎回地味……というか、ネガティブ・パート担当を余儀なくされている文乃だって、決めなきゃいけない時はばっちり決める。母と娘の派手な活躍を底で支える彼女は誰よりもすごい。女たちがそれぞれの役割をそれぞれのやり方で果たしていく姿に、シスターフッドの理想形を見る思いがする。まあ、彼女たちは姉妹ではなく親子だが。
そんな三人には、これからも何をやってもうまくいかない人、生きづらさにうつむくだけの人たちの運命を鮮やかに変えていってほしい。現実世界の雲行きが芳しくない今だからこそ、女神たちの痛快な活躍を見ていたいのだ。
我らが三世代探偵団、期待しています。
がんばって!



























