『お稲荷さまの謎解き帖』
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厳しいノルマを課された神様が不可解な願い事を解決する謎解きミステリ
[レビュアー] 若林踏(書評家)
愛らしいキャラクター造形と謎解きの妙味が詰まった連作短編集だ。
本書の第一話である「神様、どうか私が殺されますように」は第四十六回小説推理新人賞を受賞した作品である。同編の主人公は江戸時代より続く神社に棲みつく稲荷神、つまり人間ではなく神様だ。“やわ神”と呼ばれる稲荷神は、天界を統べる大神様が選んだ“誉人”の願いを叶える役割を課されており、日々神社を訪れる人間の願いを聞いているのだ。だが稲荷神が願いを叶えることが出来た“誉人”の人数は三百年間でたったの五人。業を煮やした大神様は今度訪れた “誉人”の願いを叶えなければ、神としての資格を剥奪すると宣告する。
厳しいノルマを課された会社員のような神様の姿に思わず笑みが零れるのだが、この設定を謎解きミステリの形式へ違和感なく繋げるところが本書の美点である。第一話ではどうか自分を殺して欲しいと願う中年女性が“誉人”として現れ、稲荷神を悩ませる。不可解な願い事を行う背景には何があるのか、という謎解きが各編に必ず盛り込まれていくのだ。謎解きだけではなく、稲荷神がどうやって“誉人”の願いを実現させるのか、という筋立てで興味を引っ張る点も良い。第二話「神様、どうか幽霊に会えますように」では死んだ夫の霊に会わせて欲しいという女性が神社を訪れる。神様とて死人と生者を対面させることは出来ない。では、どのような方法を取れば願いを叶えることが出来るのか、という試行錯誤を行う部分もミステリとしての読み味を支えている。
神様の成長譚としても楽しい。稲荷神は人間の心の機微が理解できず、ふだんは少年の姿をしていることも重なって未熟さを感じさせる。それが人間界に深くかかわることで、どのように変化していくのかという点も連作を通して描かれるのだ。こんなに愛しく、身近に感じられる神様は他にいないだろう。


























