『最新報告 混迷のリニア中央新幹線』
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<書評>『最新報告 混迷のリニア中央新幹線』樫田秀樹 著
[レビュアー] 斎藤貴男(ジャーナリスト)
◆負担と危険 懸念が現実に
JR東海、自治体、メディア、国、司法、有識者。これらのどれか一つだけでも真(ま)っ当(とう)に機能していたら-。
今日の混迷はなかった。事実関係を淡々と綴(つづ)っていた著者が、エピローグに至ってようやく迸(ほとばし)らせた悲憤慷慨(ひふんこうがい)だ。
リニア中央新幹線計画の現状は、ほとんどカオス状態だ。懸念がそのまま現実となっていく。重大かつ深刻に過ぎるのに、なぜか批判的には報じられにくいテーマである。著者は取材費をクラウドファンディングで調達した。
最新報告を謳(うた)う本書によれば、リニア計画は初めから人間の生活を無視してきた。とにかく噓(うそ)が多い。五つの裁判が提起され、うち三つで原告の主張が棄却された。自治体もまた住民を追い立てる。
長野県飯田市の地域社会が崩壊した。億単位の自己負担での移転を県から提示された工場主。「赤紙には簡単に応じられない」と踏ん張った末に、1人だけ取り残された古老もいる。300年枯れなかったという通称「天王様の井戸」の地下水脈を地下130メートルの工事で断ち切られ、干上がったのは岐阜県瑞浪市の大湫(おおくて)町。憤る住民らを尻目に、市長は「多くはJRの説明に納得した」と答弁した。
東京・品川-名古屋間の9割弱をトンネルが占める計画だ。東京ドーム約46杯分とされる残土の行き先の80%は決定済みとの広報も、地名さえ非公表なのでは信用できない。山梨県の早川町では、4・1万立方メートルのみ町内に置かれる予定が、いつの間にか93万立方メートルに増えていた。
沿線都県のうち唯一、安易な推進には与しなかった静岡県も、水資源の保証を求めていた川勝平太前知事の辞任を境に、態度を一変させた。
リニアとはブレーキの壊れた暴走機関車か。主導したJR東海の葛西敬之元会長も安倍晋三元首相も今は亡い。
JR東海は昨年10月、リニアの総工費は11兆円になると発表。前回の見直しより4兆円の増。2027年だった開業予定も、「35年以降」へと延期された。無責任きわまる大風呂敷のために、私たちはどれほどの負担と危険を強いられることになるのだろう。
(旬報社・1980円)
1959年生まれ。フリージャーナリスト。著書『自爆営業』など多数。
◆もう1冊
『国商 最後のフィクサー 葛西敬之(かさいよしゆき)』森功著(講談社)


























